12 デビュタント

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キミーは初めての夜会だ。ローレンスとフランソワは何度か夜会に出席している。デビュタントは女の子のためのものなの。 キミーには楽しんでもらいたいな。 デビュタントのパートナーは、本来父や兄がエスコートするのだけど、もう婚約することになっているから、フランソワがキミーの隣に立つ。 フランソワは柔らかくキミーの顔を見つめている。 弟とキミーがうまくいってよかった。 マリエは遠い目で御令嬢方の白いドレスを見つめた。 ああ、私も2年前デビュタントをしたんだっけ。 ふと思い出す。 あのときも私はおじいさまの通訳兼だったから半分仕事だった。隣国のグランフォート侯爵らと商談するからと言われ、デビュタントだから無理と抵抗したんだけど。デビュタントが話題にもなるからちょうどいいとおじいさまに押し切られ、仕事に臨んだんだわ。 通訳仕事もデビューだったため、デビュタントなのにホールで踊った記憶も、楽しかった記憶もない。 国王と后に挨拶しただけだった。 社交界デビューよりも通訳として冷や汗をかきながらおじいさまの隣に立っていた。 うん、あの時はつらかった。ドキドキしたし。初仕事だから、緊張したのよ。 おじいさまも隣の国の言葉は喋れるのに、わざと商談に私を呼んで通訳させた。まあ、今となってはそれも祖父の優しさだったり、顔を売るチャンスだったり、通訳させることが仕事上のテクニックだったりするのはわかるんだけど。 というわけで、今日の夜会はキミ―が主役だけど、デビューは終わっていたけれど私もドキドキしていた。 今日は仕事抜きだから気持ちも楽! ローレンスもいるしね。 名前を呼ばれ、フランソワはキミーの手を取り、前に進む。キミーがあいさつをすると、国王と后がキミーに白い花飾りを手渡した。 これは社交界デビューしたばかりだという印。フランソワが右の耳そばに花を髪に挿した。 二人は恥ずかしそうに互いを見つめ幸せそう。 ローレンスがマリエの腰に手を置き、顔を近づけた。 「マリエ、踊っていただけますか」 耳に低い声が響いて、キュンとした。マリエは顔を赤らめて、うんと頷く。 「他の人の注目を集めてるから、マリエを今すぐ家に連れて帰りたいくらいだ」 大げさである。 でも、褒められて悪い気はしないけどね。
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