130人が本棚に入れています
本棚に追加
「ああ、マリエ嬢は婚約間近なのかな? それは残念だなあ。ローレンスは他の御令嬢と婚約して、マリエ嬢は私と結婚というのはどうだろう?」
ヴィンセント様は冗談めかして言うが、目が笑っていない。
ローレンスとは、王立学校留学時の同級生だ。
お互いバチバチと火花を散らす。
私の知らないところで、揉めてたな。これは……。
「俺とレイラ嬢は何もない。学校でしつこく追い回されたくらいだ」
やっぱり……。そうなんだ。モテてたんですね……。おもしろくないわ。いやだわ。
ふうとマリエはため息をつく。
「でも、何もない。俺は小さい時からマリエ一筋だからな。マリエがいればいい」
ローレンスが威張って言い、私の腰に手を回す。
でも……。本当に私が婚約者でいいの? もっと可愛い子も、歳下も、家格の良い子もいるのに。
私の曇り顔を見て、ローレンスは「迷惑をかけてごめん」と謝った。
「どうして謝るの? ローレンスのせいじゃないわ」
もしかしてレイラのことを好きになったとか? やっぱり婚約やめるとか?
嫌な考えが頭の中に広がる。
ダメだわ。悪いことばかり考えてしまう。
マリエは小さく息を吐いた。
気分を変えましょう。外の空気を吸えばきっと気分もよくなるわ。
ローレンスが御祖父様に説明している間に、マリエはそっと一人で中庭へでた。
おじいさまもこちらをチラチラ見ていたから、わかっているだろうし。
護衛の騎士や見張りの騎士たちもそこかしこにいるもの。安全ね。
ライトアップされた中庭のベンチにマリエは腰を下ろした。
あー、ローレンスを好きになるなんて! 婚約とか、私の人生計画になかったのに。おまけにレイラと初修羅場。ヴィンセントと三角関係?
恋なんて……、私の人生計画のなかで計算外。仕事は努力のかいがあって、結果が得やすいけど……。人の心はわからないもの。相手の行動に一喜一憂するとか、気持ちのアップダウンは苦手なのよね。
でも、ローレンスの姿を目で追ってしまう自分がいて……。好き。すきなんだなぁ。
窓ガラスの向こうにはローレンスが私のおじいさまと、御祖父様に説明しているようだった。
大事にならずにすみそうだ。おじいさまたちは笑っている。
よかった。
マリエは胸を撫で下ろした。
最初のコメントを投稿しよう!