12 デビュタント

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「ああ、マリエ嬢は婚約間近なのかな? それは残念だなあ。ローレンスは他の御令嬢と婚約して、マリエ嬢は私と結婚というのはどうだろう?」 ヴィンセント様は冗談めかして言うが、目が笑っていない。 ローレンスとは、王立学校留学時の同級生だ。 お互いバチバチと火花を散らす。 私の知らないところで、揉めてたな。これは……。 「俺とレイラ嬢は何もない。学校でしつこく追い回されたくらいだ」 やっぱり……。そうなんだ。モテてたんですね……。おもしろくないわ。いやだわ。 ふうとマリエはため息をつく。 「でも、何もない。俺は小さい時からマリエ一筋だからな。マリエがいればいい」 ローレンスが威張って言い、私の腰に手を回す。 でも……。本当に私が婚約者でいいの? もっと可愛い子も、歳下も、家格の良い子もいるのに。 私の曇り顔を見て、ローレンスは「迷惑をかけてごめん」と謝った。 「どうして謝るの? ローレンスのせいじゃないわ」 もしかしてレイラのことを好きになったとか? やっぱり婚約やめるとか? 嫌な考えが頭の中に広がる。 ダメだわ。悪いことばかり考えてしまう。 マリエは小さく息を吐いた。 気分を変えましょう。外の空気を吸えばきっと気分もよくなるわ。 ローレンスが御祖父様に説明している間に、マリエはそっと一人で中庭へでた。 おじいさまもこちらをチラチラ見ていたから、わかっているだろうし。 護衛の騎士や見張りの騎士たちもそこかしこにいるもの。安全ね。 ライトアップされた中庭のベンチにマリエは腰を下ろした。 あー、ローレンスを好きになるなんて! 婚約とか、私の人生計画になかったのに。おまけにレイラと初修羅場。ヴィンセントと三角関係? 恋なんて……、私の人生計画のなかで計算外。仕事は努力のかいがあって、結果が得やすいけど……。人の心はわからないもの。相手の行動に一喜一憂するとか、気持ちのアップダウンは苦手なのよね。 でも、ローレンスの姿を目で追ってしまう自分がいて……。好き。すきなんだなぁ。 窓ガラスの向こうにはローレンスが私のおじいさまと、御祖父様に説明しているようだった。 大事にならずにすみそうだ。おじいさまたちは笑っている。 よかった。 マリエは胸を撫で下ろした。
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