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もし、婚約がなくなってしまったら……。考えたくもないけれど。でも、そうなったら、もう独身で過ごして、翻訳の仕事で生きていくのもいいかもしれない。仕事をバンバン入れてしまおうか。
ローレンスとうまくいかなかった時のことを考えると、背筋がゾッとした。ローレンスに会いたい。一緒にいたい。
こんなに気持ちが揺れるなんて、本当に自分が嫌になる。恋は人をダメにするわ。ローレンスと結婚してもいいの?
マリエは夜空を見上げた。
キラキラと星々が瞬いていて、地上の煩わしいことなどなかったかのように美しい。
この恋に賭ける覚悟を決めないといけないのだろう。仕事のデビューのときを思い出す。やると決めたなら、真摯に向かい合わなくては。
自分は自分でしかない。ローレンスが選んだのは、私なのだから。ローレンスを信じよう。もし、婚約がなくなったら、その時は身を熟して働こう。だって、好きなんだもの。離れられない。離れたくない。
「マリエ! 何処にいる?」
「マリエ! マリエ!」
大きな声で私を呼ぶ声がした。ローレンスだ。心配してくれているみたいで、焦った声だ。
「ローレンス、ここよ」
ローレンスはベンチにいるマリエを見つけ、胸を撫で下ろす。
「マリエ。あなたに嫌な思いをさせた。もうこんな思いはさせない。だから、いますぐ結婚しましょう」
その前に婚約だ。どうしてこうなった。ようやく恋に向き合うことを決意したばかりなんだが?
ローレンスは息を切らしてマリエに駆け寄ってきた。
中庭と言っても、王城の中。それなりに男女がいます。みんなに聞かれちゃうんだけど。
マリエは頬が赤くなるのを感じた。
ローレンスはマリエの瞳を見つめ、手を握る。
「おやおや、聞き捨てならないね。いつのまにマリエ嬢の結婚の話に? 婚約ではないのかな? せっかく僕が慰めようかと思っていたのに、君は邪魔なんだよ」
すっと暗闇からヴィンセントが現れた。
「婚約でない。結婚だ! なんだったら、今すぐ結婚だ。お前は見るな! マリエがへる」
「はあ? 婚約期間もおかずに結婚すると? こっちはお前と婚約破棄させてやるつもりだったが?」
「ああ、もちろん絶対そんなことはない。マリエとしか結婚しないから心配するな」
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