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第26話 神だったもの
男たちに籠で運ばれ、ディゼルは神が祀られているという洞窟まで来た。この奥に神様がいるらしく、中に入れるのは花嫁となる者だけ。男たちは籠を置いて、そのまま去っていった。
暫くして、周囲に人の気配がしなくなったことを確認してからディゼルは外に出た。まだ昼間だというのに薄暗く、洞窟の奥からは何やら気味の悪い唸り声のようなものが聞こえてくる。
「……さて、せっかくだから神様とやらを見ていきましょうか」
「あまり強い気配は感じられないがな」
靄の中から現れた悪魔が腕を組みながらそう言った。
じゃあ何がいるのだろう。ほんの少し好奇心が駆り立てられ、ディゼルは白無垢の裾を持ち上げて歩き出した。
どれほど歩いただろうか。洞窟は思っていたよりも深かった。十分ほど進んでいくと、ようやく開けた場所に辿り着き、小さな祠が置かれていた。
そして、その祠を守るように巨大な白い蛇が蜷局を巻いている。
「まぁ、神様というのは大きな蛇さんなのですね」
「なるほど。確かに白蛇は昔から信仰の対象にされてきたと言われているから、あながち間違いでもない」
「へぇ、そうなのですね」
「それに、多少は力のある生き物みたいだな。生贄で腹を満たすことで発せられる力が周囲にも影響を与えているようだ。まぁ、微々たるものだけどな」
「じゃあこの神様があの街のために何かしてる訳じゃないのですね」
「ああ。たまたまコイツの住処の近くに街があるだけだ。街の奴らがそれを勘違いしてるだけに過ぎない」
悪魔の気配に気付いた蛇が起き上がり、こちらを威嚇するように睨みつけている。普通の人間だったら威圧感で失神しててもおかしくない。だがここにいるのは悪魔と、その花嫁。
目の前にいる二人の異常なまでの禍々しさに、野生の本能で瞬時に気付く。死ぬのだと。殺されるのだと。
「シャアアアアア!!」
蛇は死を恐れ、襲い掛かる。所詮はただの生物。人間が勝手に神として崇めているだけで、元はただの野生動物。縄張りを奪われまいと、目の前の敵に挑む。まずは人間の方。か弱い女を食い、力を付ける。それから悪魔を倒す。
だが、無駄。
「俺の花嫁に手を出すな」
一刀両断。瞬く前に蛇の首が落とされ、その返り血でディゼルの白無垢が真っ赤に染まる。
苦しむ間もなく逝けたことが唯一の救いだろう。ズドン、と音を立てて蛇の体が血に倒れ、足元に血溜まりを作る。
「呆気ないですね、神様と呼ばれていたのに」
「たかが蛇だ。長く生きているってだけで、それ以上も以下もない」
「これからあの街はどうなります?」
「どうもならないだろうな。まぁ神様が死んだとなれば大騒ぎだろうが」
「そうですか。だったら、教えてあげましょうか。神様なんて存在しないことを」
ディゼルは微笑む。
頬に伝う、神だったものの血を舐め取りながら。
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