第47話 何度でもあなたを愛する【最終回】

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第47話 何度でもあなたを愛する【最終回】

——— —— 「せーんせ!」  放課後。芹那は美術室のドアを開けて中にいるであろう人に声を掛けた。  夕日が差し込み、色素の薄い彼の髪がほんの少し赤く見える。芹那はこの光景が、どうしようもなく好きだった。 「また来たのか」 「へへっ。来ちゃいました」 「……ったく。お前も物好きだな」 「良いじゃないですか。だって私、先生のことが好きなんですから」 「はいはい」 「ああ、本気にしてない」 「……あのなぁ。お前、毎回同じやり取りして飽きないのか?」 「はい!」  元気よく返事をする芹那に先生は溜息を吐いた。  二年半前、この学校に入学してきてから芹那は毎日のようにこうして美術室に顔を出しては自分のことが好きだと言ってくる。立場上、生徒からの好意を受け取るわけにはいかない。本人には何度も何度も告げているが諦める様子は微塵もない。  正直、折れかけているところもある。何故だろうか、出逢った時から放っておけないと思っていた。目で追ってしまうこともよくあった。何故かは分からない。しかし気になっていることは事実。 「だって私、先生と出逢ったとき思ったんです。これは運命だって」 「はー、若いねぇ。もういう言葉を恥ずかしげもなく言えちゃうとか」 「先生だってまだ若いじゃないですか」 「十代の若さと一緒にするんじゃないよ。こっちはもうおっさんなの」  そう言いながら、先生は描きかけのキャンバスに筆を走らせていく。  はっきりとした輪郭を描いてはいないが、何となく男女の絵にも見える。いつもは風景画ばかりを描く先生にしては珍しい絵に、芹那も邪魔しないように気を付けながら後ろからジッと眺めてしまう。 「これ、モデルでもいるんですか?」 「いや……何となく思いついたものを描いただけだ」 「へぇ。なんか、ちょっと悲しそうな雰囲気ですね」 「そうか? 俺はわりと楽しそうにも見えるけど」 「これ楽しい絵なんですか?」 「描いてる俺は楽しい」 「うーん……」  分からない、という顔を浮かべる芹那に先生は軽く噴き出した。  自分に付きまとう割に美術部には入らないのかと依然聞いたことがあったが、彼女は絵心がないとか何とかモゴモゴと恥ずかしそうに言っていたのを思い出す。 「たまに夢で見るような気がするんだよな」 「この二人を?」 「ああ」 「この二人は恋人とかですか?」 「いいや。そういう関係じゃない。男は別に女を愛しちゃいないからな」 「ふーん」 「まぁ夢の話だし、はっきりとは分からないけど……多分、そうだと思う。でも、依存していた」 「何それ」 「知らねーよ。夢のことだし」  先生は肩を軽く回し、画材を片付けた。  そろそろ日も暮れる。さすがに下校時間を過ぎたのに生徒をこのままにしておくわけにはいかない。 「ほら、お前ももう帰れよ」 「えーまだいいじゃないですかー」 「お前は俺が他の先生に怒られても良いって言うのか」 「むぅ……じゃあ、また明日……」  名残惜しそうに部屋を出ていこうとする彼女に、先生は呟くように、だけどはっきりと聞こえるように言った。 「あと半年、我慢しろよ」  その言葉に、芹那はビックリした顔で振り返った。  先生は愉快そうな笑みを浮かべ、さっさと帰るように手で払うような仕草をしてみせる。 「は、はい! 先生、またね!」 「おう、また明日」  いつもよりも楽しそうに去っていく彼女の足音を聞きながら、先生は茜色に染まる空を眺めた。
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