猫になった君

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 玄関を開け、ただいまと声をかけようとしたところ、すぐ足元からにゃあと声が聞こえた。 「やぁ、美樹。ただいま」  足元にいる美樹が、僕の言葉に「お帰り」というように、もう一度にゃあと鳴く。美樹はするりと僕の足に体を摺り寄せたかと思うと、ととと、と部屋へ向かって先導するように歩いていった。いつものルーティーンだ。僕はコートをハンガーにかけると、美樹に従うように自室へと向かった。  レジ袋からお弁当を取り出し、レンジへと入れると、美樹が不機嫌そうな声を上げた。「またコンビニ弁当?」とでも言っているに違いない。 「ごめんね、ちょっと仕事が忙しくて」  取り繕うように謝りながら、餌箱にキャットフードを入れる。美樹はふんと鼻息を洩らしつつ、餌に口をつけ始めた。その様子を見ながら、僕も温め終わったコンビニ弁当に手を付け始める。自炊をしないとなぁとは思うが、一人分の食事を作るのもなんだか味気なくて、興が乗らないでいる。そんなことを口に出せば、美樹にまた怒られてしまうだろうけど。  美樹にご飯を作ればいいか。ふとそんなことを考える。ああ、でも猫って食べてはいけないものがいろいろあるんだっけ。気になって調べてみると、いろんな野菜に加えて、青魚もダメらしいと分かる。猫と言えば魚のイメージだったのだけれど、なかなかそうシンプルにはいかないみたいだ。また、エビやイカなど、もっての外のようだ。危ないところだった。つい好物だったからとあげてしまうところだった。このことを教えたら、美樹はどんな顔をしただろうか。悔しがるだろうか。それとも、既に知っていたと自慢してきただろうか。どちらの顔も思い浮かぶようで、僕はふふ、と笑う。そんな僕を美樹が気味悪そうに一瞥し、また餌に戻っていった。きっと今は呆れた顔をしているに違いない。  実際に顔が見られたらどんなによかっただろうか。僕は美樹に聞こえないように、静かに溜息を洩らした。  美樹が猫になって三か月が経とうとしていた。
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