猫になった君

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 人間が猫になる。そんな奇妙な病気が存在していることを、僕は美樹と一緒に見たテレビで初めて知った。ある日寝て目が覚めると、猫になっている。そんな童話みたいなことが、実際に起きるのだそうだ。 「知らなかったの?」  驚く僕を見て、美樹が「常識じゃん」とでも言いたげに笑った。聞けば一千万人に一人とかそんな確率で発症するらしく、治療法どころか原因も何もわかっていないらしい。そんな少ない症例の病気を知っている方が珍しいのではないか。そう口にしかけたが、美樹の不興を買っても仕方がないので黙っていた。  そもそもそれは病気なのか? 何かの呪いと言われた方がまだ納得がいく。 「いいなぁ、猫になったら、どんなに楽しいだろうなぁ」  テレビを見ながら、美樹が心底羨ましそうに言った。 「そう? 色々と不便じゃない?」  僕は自分が猫になったことを想像した。手がないから何かを持つことができない。こうしてテレビのリモコンをいじることもできないし、ゲームなんて当然無理だろう。車だって運転できないから遠くにも行けないし、箸が持てないからご飯を食べるのだって犬食いになる。  僕がそう言うと、美樹は「犬食いでもそんなに不便ないと思うけど」と反論する。 「でも犬食いじゃ、君の好きなステーキも、パエリアだって食べられないと思うけど」  僕の言葉に、美樹は「それは困る」と呟いたが、ちょっと考えた後にパッと顔を輝かせた。 「だったら駿が食べやすいようにしてくれたらいいじゃない」  名案だ、とでも言いたげに笑う美樹に、僕は「なんて他力本願な猫なんだ」と呆れる。 「あらやだ、人間は猫のしもべなんだから当然じゃない」 「そんなことないと思うけど。ていうか、僕がどうにかするの前提なの?」 「当然でしょ?」  美樹はそう言って胸を張った。猫になった美樹を僕が見捨てるという考えなど微塵もないと言いたげに。まぁ、それはそうなんだけど。僕はちょっと呆れつつも、なんだか嬉しくなって、美樹と一緒になって笑った。  その時は、美樹が本当に猫になってしまうだなんて、夢にも思わなかったんだ。
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