猫になった君

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「その後はどうですか」  いつもと同じ先生の質問に、僕はいつも答えに悩む。 「変わらない、です」  それはいい意味なのか悪い意味なのか。口にしている自分もよくわからない。僕の言葉に、先生は「そうですか」と呟く。 「まぁ、急に戻るものではないみたいですからね、気長にいきましょう」  優しい声音で言ってくれるが、それが気休めでしかないのは分かっていた。恐らく先生自身にも、言い聞かせているのではないだろうか。 「そうですね、そうします」  僕の言葉に、先生はどこか安心したように笑った。  定期健診を終え、僕は美樹の入ったケージを持って動物病院を出た。やることと言えば血液検査だとか体重測定だとかそんなものくらいで、じゃあどう治療しましょうとかそういった話は出ない。本当に気休めでしかない。  猫が人間に戻った話を、僕も、きっと先生も聞いたことがない。  溜息をついていると、ケージの中の美樹がにゃあ、と鳴いた。気にするな、と言った気がした。 「ああ、ごめんね。窮屈だよね、早く帰ろう」  僕の言葉に、美樹がまた、どこか優しい声音でにゃあ、と鳴いた。
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