なんでもない日

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🐈  電車が終点に着いて、琴子と麦は砂浜に座ってぼんやりと海を見つめた。数人のサーファーと、犬を散歩させている老人が見える。電車の窓からはあんなにキラキラと輝いて見えた海は、目の前にしてみればただの大きな水たまりのようにも見えた。それでも、ぱしゃぱしゃと押し寄せる波の音は耳に心地よく、初夏の風がふうわりと心地よく頬を撫でる。一度は遠ざかった眠気がまたじわじわとにじり寄ってくるのを感じた。琴子は抗えずに目を閉じた。瞼に暖かい光を感じる。目を瞑ったまま、麦に話しかける。 「電車の中で、夢見たの。麦とわたしが猫になってた」 「まじで」  麦が嬉しそうに笑う。 「正夢だったらいいのに」 「ねー」 「ねー」 「知ってる?この世でどう猫に接するかが、天国でのステータスを決めるんだって」 「誰が言ってたの?」 「ん、なんか、外国の偉い人」  その言い方がいかにも麦らしくおおざっぱで投げやりだったので、琴子はふふ、と笑う。
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