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「お母さん!お母さん!やめて!助けて!許して!」
5歳くらいの女の子が泣き叫んでいます。
その声を聞いて、母親とおぼしき女性は冷淡に言い放ちました。
「チエちゃんがいけないんだからね。悪い子ばっかりしてるからいけないんだからね」
女性の顔には、わずかに微笑すら浮かんでいるように見えます。
「もう悪い子しないから!ほんとだから!だから許して!取り替えないで!」
女の子の叫び声に対して、ふぅっと一息、息を吐き出すと女性は答えました。
「もうちょっと早くその言葉が聞きたかったわ。でも、もう手遅れなの。契約は済んじゃったのよ」
「いやいやいや!」という声を上げる女の子の襟首を、頑丈な男の腕がむんずとつかむと、女の子は闇の中へと放り込まれ、そのままどこへやら消えていきました。
徐々に小さくなっていく女の子の叫び声。
やがて、訪れる静寂。
「では、こちらの子でよろしかったですか?」と、先ほどの腕の持ち主が呟きます。
女性はにんまりと笑うと、嬉しそうに答えました。
「ええ、ええ。充分とですとも。今度の子はおとなしそうですね」
男は相づちを打ちます。
「そうでしょうとも。そうでしょうとも。実におとなしくて従順な子ですよ。決して母親の命令に逆らうようなことはありますまい」
ふたりの視線の先には、先ほど闇に放り込まれたのとは別の女の子が。右手の人差し指の先を口の中に入れ、ポカ~ンとした表情で女性を眺めています。
「さあさ。指をしゃぶるのはおやめなさい」
男が指示すると、女の子は素直にその言葉に従います。よだれで濡れた指先をスカートでぬぐうと、サッと直立不動の体勢を取りました。
「まあま、素直なこと。でも、次からはハンカチーフを使いましょうね」と、女性は満足そうな笑顔で言います。
その言葉を聞いて、新しい女の子はコクリと小さくうなずきました。
「では、この子をいただいていきますね」と、女性。
「まいどありがとうございます。またご用があれば、いつでも」と、屈強な腕の男。
ここは「子取り替え屋さん」
親の言うコトを聞かないわがままな子を連れてきて、いくばくかの料金を支払えば、別の子供と取り替えてくれるという便利なお店なのです。
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