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スタンドライトを頼りにブローチを修理しているとカランカランとベルが鳴り扉が開いた。反射的に立ち上がる。
「いらっしゃいませ! 暗いので足元に気を付けてください」
入ってきたのは素朴な身なりの中年男性で、おずおずと話し出した。
「……ああ。ここは願いを叶えてくれるアクセサリーを売っていると聞いた。今度娘が嫁入りするんだ。そのときに餞別として何か渡してやりたいと思って」
薄暗い店内に動揺しながらも、その瞳には揺らめく光が宿っていた。こういう話には慣れっこなのでいつもと同じように返す。
「願いを叶えるなんて大層なものじゃあないですよ。星の輝きは心を落ち着けてくれて、見落としていたものに気づかせてくれるだけです」
「そうなのか?」
悲しそうに、残念そうに、聞き返された。これもよくある反応だ。
「はい。あたしは人を幸せにする魔法なんて使えませんから。あたしにできるのは、誰の目にも留まらなくなってしまった星たちを、求めている人に引き合わせることだけです」
「じゃあ、噂は嘘だったのか……?」
「うーん、どうでしょう……。星を身につけてからいいことがあったってお声をいただくこともありますから。でも、心の底から何かを願って、諦めない人にはちゃんと答えてくれますよ。星たちはいつだって優しいですから」
男は眉をひそめて言葉を失う。あたしは構わず星の並ぶ棚を手の先で示した。
「それでもよかったら、あちらの棚から惹かれるものを選んで触れてみてください。渡したい人のことを思いながらお願いします」
「え? ああ、わかった」
男は棚の端から順番にゆっくりと眺める。それからわずかにピンクがかった透明なものにそっと触れた。すると内側から星と同じ色の光が放たれる。男は思わず声を上げ、手を引っ込めた。
「うわっ!?」
「ほら、言ったでしょう? 答えてくれるって。こちらの星でよろしかったら、奥のカウンターでお話を聞かせてください。ネックレスがいいとか、耳飾りがいいとか」
「あ、ああ。よろしく頼むよ」
目の前の光景が信じられないのか、あたしと星を交互に見て浅い返事をした。
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