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3
仲間たちから離れ、国を出ようと思っていたエンが、何故か行った事がない筈の葵の住処のある山に倒れていた。
回復した男を招き入れ、居候させていた事をメルに知られたのは、不可抗力、という奴だ。
骨休めに蓮が立ち寄ると知った女が、若者を訪ねてやって来たのだ。
その時にはすでに、必要以上に左腕を封じていたエンは、その来訪に動揺した。
慌てて逃げようとする男をメルは捕まえ、いつもの愛らしい顔のまま、凄んだ。
「何で、お前がこんな所に、いるんだあっっ」
「あんたこそ、何しに来たんだ? つうか、良くここが分かったな」
冷静な若い声が、男の代わりに問い返す。
「何の知らせもなく来て置いて、いきなりうちのもんに、乱暴働くんじゃねえ」
「別に、乱暴じゃ、ねえだろっ。大体、何で、こいつが……まさか、ヒスイを近づけねえ理由は、こいつとの蜜月を……」
「寝言しか出て来ねえんだったら、帰って寝た方がいいんじゃねえのか?」
あらぬ想像をするメルの言葉を一蹴し、蓮は抱えていた木の枝を下ろす。
「だったら、何でこいつがっっ」
「あんたに、話す謂れはねえな。すぐに探さなくなったくせに、今更気にすんのは、おかしいだろうが」
エンが去ってから五十年が経っている。
その間、その行方を捜したのは、いなくなった日から三日ほどだけで、捜索を打ち切っていた。
それは、近くにはすでにいないと言うロンの判断もあったが、何よりも、雅の声があったからだ。
「仕、方ねえだろ。ミヤの奴が、もうやめようって……探して、生きていなかったら、力不足を実感するだけで、虚しいからって」
それ以来、エンの話は、出さないようにしていた。
この五十年、雅は変わらない。
だが、セイの方は、頑なに自分達と距離を置いていた。
「盆と正月には、あの住処にいるけど、それ以外で顔を合わせる事が、無いんだ」
顔を合わせた時にも、何を考えているかいまいち分からず、一体、いない間何をやっているのかと、仲間を心配させている。
「ミヤは落ち着いて来たねと笑ってたけど、そんなはずない。いつ、またあんなことをしでかすか……」
小屋の中に招き入れ、腰を落ち着けたメルが言って身震いするのを、蓮は朝飯が出来るのを待ちながら見つめていた。
一緒に手分けして、薪になる枝を拾いに行った葵が戻ってこないので、早い所迎えに行きたいのだが、その話は興味があった。
エンの方からの事情は聞いていたのだが、セイやその周囲の事情は、全く聞こえてこなかったのだ。
この時までで、セイとも仕事で顔を合わせていたが、群れを自分一人の手で解散に導いた経緯を、若者自身から語られたことはない。
「あんなことってのは、どんな事だったんだ? エンは詳しく知らねえらしくて、事情が全く分からねえんだ」
正直に訊いた若者に、メルは正直に語り出した。
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