木から落ちたら猫になったので、僕はもう一度元彼に拾ってもらうことにした

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 朝からどんよりとした厚い雲が空を覆っていた。ゴロゴロと、遠くで雷が鳴っている音が聞こえてくる。和叶は動く気力が起こらずソファーで寝転がっていた。 「なぁ、カズ。お前まで俺を置いて行かないでくれよ」  凌はソファーの前に座り力無く項垂れている。  和叶は凌に優しく撫でてほしくて、震える前足を伸ばした。凌は和叶の前足に気づくと、和叶の体を優しく撫でる。 「これも、俺への天罰なんだろうな」  凌は赦しを請うように頭を下げた。 「仕事で孤立してうまくいかないイライラを家族同然の和叶に八つ当たりしていた。本当に情けなく思うよ。不機嫌で許される環境なんてろくなもんじゃないのにさ」  そうだよ、お前の不機嫌は嫌いだった。 「きっと、和叶は愛想を尽かして俺のことなんか忘れてしまったんだろうな」  そんなことない。未練タラタラで猫になってここにいる。 「あぁ、もう一度会って謝りたい」  言葉を喋って謝りたい。  ただ、今は、そうだな。 「しょうがないにゃ、惚れた弱みにゃ」  和叶は数ヶ月ぶりに人間の姿に戻っていた。いつもなら、猫語になるはずの言葉が日本語に変換されている。  ただ、久しぶりに言葉を発したからか少しばかり舌足らずだった。 「和叶……? え、カズ……猫は?」  凌は驚いた顔で和叶を見る。そりゃそうだ、飼ってた猫が見知った人間になったのだから。 「戻った……」  和叶は自分の体を見る。服を着ていないから裸だ。 「凌! 今すぐ服をよこせ!!」 「あ、おう!」  猫から人間に戻った時、一番怖かったことは別れた原因を知った上で凌と向き合うことだった。  ただ、それは杞憂だった。  人間に戻って、再び笑えるなんて想像できなかった。こんなにもおかしくて、楽しい人生はない。  いつの間にか、雨雲が遠のき、まばゆい陽光が降り注いでいた。
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