王太子殿下のサプライズ

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王太子殿下のサプライズ

『殿下が来たら、日本語は禁止よ』 『分かってますって。楽しみ〜』 屋敷中のメイドやフットマン、バトラーまでが大慌てで、屋敷の隅々までを綺麗に整える。 王太子殿下の瞳の色である深い藍色のカーテンに変えたり、国旗を掲げたり。 私も幾分か手伝ったけど、まだ10歳の体は小さくてかえって邪魔になったんじゃないかな。 「お気持ちだけで充分です。アリシアお嬢様」 気のいいコリンナが、にっこりしながら慰めてくれた。 もうちょっとしたら、お手伝いできると思うから。 「王太子殿下がご到着されました」 お父様の執事が、額に汗をかきながら報告。 私を含めた4人の家族とメイドさんたちが、広い玄関ホールで出迎える。 「いらっしゃいませ、アレックス王太子殿下」 「出迎え、感謝する」 5人の騎士を従えて、颯爽とご登場。 高貴な方って、花を背負うのね。眩しい…… 隣のコーディリアは…ああ、目がハートになってる。 大丈夫!おばあちゃん、いやいやお姉さんに任せないさい。 「仲がいいんだな」 応接室でお茶をいただく。 リンデンティーと言って香りのいい紅茶よ。 コーディリアは興奮気味に、私の隣にちょこんと座る。 「ええ、懐かれてしまって離れないんです。同席の許可をありがとうございます」 王太子殿下が持ってきてくれたお菓子を、1ついただく。 あら、美味しい。見た目は固そうなクッキーなのに、口に入れたらほろっと溶けて、花の香りと一緒に上品な甘味が口に広がる。 「気に入っていただけて良かった」 そう言って、ふわっと笑った。 最初の硬い印象はどこへ置いてきたのかしら。 ……美味しいって顔に出ていたのね。少し恥ずかしい。 「こほん。たいへん美味しゅうございます」 私のお気に入りの庭園で、殿下と私、コーディリアのお茶会。 「コリンナ」 「はいお嬢様。持って来ております」 3冊の本を持って来てもらった。 「ありがとう、コリンナ」 「おすすめの本?」 半日をかけて選んだのよ。 ひとつは伝記物、2冊目は摩訶不思議な冒険物、3冊目は自然の美しさを詠んだ、美しい挿絵のある詩集。 選んでいて気が付いたの。全て吾郎さんの好みの本だって。 私の男性基準は吾郎さんなんだから、しょうがないよね。 気に入らなかったら、持って帰らなくてもいいし。 王太子殿下は、ひとつひとつ手にとってパラパラとページを流す。 「面白そうだ。ありがとう」 本から目を離さず、楽しそうに言う。 これは想像していた以上に、本が好きなんだわ。 つかみはばっちりね。 「俺からサプライズがある」 そう言って、席を立つと私に手を差し出した。 来いって事? 眩しく優しい笑顔で誘うから、思わず手をとってしまった。 3歳児のコーディリアは、幼いからとお留守番。 ぶうぶう言っていたけど、お母様に抱っこされて連行。 大丈夫よ、貴女のアピールはしておくからね。 馬車に乗るのかと思っていたら、王太子殿下と馬に2人乗り。 春の優しい風が気持ちいいわ。私も馬に乗ってみようかな。 案内されたのは、丘になっている中規模の公園。 「わあ…とっても綺麗」 見渡す限り菫色の海。 優しい風で、菫色の花びらが舞う。 「花を贈ろうと思ったんだが、こちらを勧められて」 「素敵なサプライズ、ありがとうございます」 なかなかやるわね。 すっかり魅了されてしまったわ。 私の瞳の色よね。好きだった色でもある。 吾郎さん、貴方にも見せてあげたい。 必ず見つけるから、待っていて。 「こちらに」 今度はエスコートされて、公園にあるベンチに導く。 こうしなさいって言われたの? 若い女の子なら、殿下にメロメロになっていたかも。 生憎、中身はおばあちゃんなの。残念ね。 「生ハムを挟んだベーグルだ。口にあえばいいが」 差し出されたのは、包紙に包まれた軽食。 ファーストフードなんて食べるんだ。 「いただきます」 ! 美味しい!!なにこれ!アボカドかな? 外は硬めでも、中はふわうわのベーグル! サワークリームが入っていて、とっても美味しい! 生ハムがいい仕事しているわ!クセになりそう! 「ふふ、気に入ったようだな」 気に入ったってもんじゃないわ! 毎日だって食べられそうよ。 明日コリンナと一緒に作ってみよう。 「とっても美味しいです!よく食べているんですか?」 「……時々城を抜け出して、街を歩く」 「え?お1人で?」 「内緒だぞ。変装をして屋台を回ったりする。これはその時に見付けて、気に入ったものの1つだ」 意外とやんちゃ君ね。 お城って窮屈なのかしら。苦笑しながら花を眺める殿下。 そうよね、公爵令嬢とい立場でも結構縛られるもの。 王族で王太子という立場なら、もっと厳しいかもしれない。 私の中で少し、王太子殿下の株が上がった。
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