50人が本棚に入れています
本棚に追加
/49ページ
王太子殿下のサプライズ
『殿下が来たら、日本語は禁止よ』
『分かってますって。楽しみ〜』
屋敷中のメイドやフットマン、バトラーまでが大慌てで、屋敷の隅々までを綺麗に整える。
王太子殿下の瞳の色である深い藍色のカーテンに変えたり、国旗を掲げたり。
私も幾分か手伝ったけど、まだ10歳の体は小さくてかえって邪魔になったんじゃないかな。
「お気持ちだけで充分です。アリシアお嬢様」
気のいいコリンナが、にっこりしながら慰めてくれた。
もうちょっとしたら、お手伝いできると思うから。
「王太子殿下がご到着されました」
お父様の執事が、額に汗をかきながら報告。
私を含めた4人の家族とメイドさんたちが、広い玄関ホールで出迎える。
「いらっしゃいませ、アレックス王太子殿下」
「出迎え、感謝する」
5人の騎士を従えて、颯爽とご登場。
高貴な方って、花を背負うのね。眩しい……
隣のコーディリアは…ああ、目がハートになってる。
大丈夫!おばあちゃん、いやいやお姉さんに任せないさい。
「仲がいいんだな」
応接室でお茶をいただく。
リンデンティーと言って香りのいい紅茶よ。
コーディリアは興奮気味に、私の隣にちょこんと座る。
「ええ、懐かれてしまって離れないんです。同席の許可をありがとうございます」
王太子殿下が持ってきてくれたお菓子を、1ついただく。
あら、美味しい。見た目は固そうなクッキーなのに、口に入れたらほろっと溶けて、花の香りと一緒に上品な甘味が口に広がる。
「気に入っていただけて良かった」
そう言って、ふわっと笑った。
最初の硬い印象はどこへ置いてきたのかしら。
……美味しいって顔に出ていたのね。少し恥ずかしい。
「こほん。たいへん美味しゅうございます」
私のお気に入りの庭園で、殿下と私、コーディリアのお茶会。
「コリンナ」
「はいお嬢様。持って来ております」
3冊の本を持って来てもらった。
「ありがとう、コリンナ」
「おすすめの本?」
半日をかけて選んだのよ。
ひとつは伝記物、2冊目は摩訶不思議な冒険物、3冊目は自然の美しさを詠んだ、美しい挿絵のある詩集。
選んでいて気が付いたの。全て吾郎さんの好みの本だって。
私の男性基準は吾郎さんなんだから、しょうがないよね。
気に入らなかったら、持って帰らなくてもいいし。
王太子殿下は、ひとつひとつ手にとってパラパラとページを流す。
「面白そうだ。ありがとう」
本から目を離さず、楽しそうに言う。
これは想像していた以上に、本が好きなんだわ。
つかみはばっちりね。
「俺からサプライズがある」
そう言って、席を立つと私に手を差し出した。
来いって事?
眩しく優しい笑顔で誘うから、思わず手をとってしまった。
3歳児のコーディリアは、幼いからとお留守番。
ぶうぶう言っていたけど、お母様に抱っこされて連行。
大丈夫よ、貴女のアピールはしておくからね。
馬車に乗るのかと思っていたら、王太子殿下と馬に2人乗り。
春の優しい風が気持ちいいわ。私も馬に乗ってみようかな。
案内されたのは、丘になっている中規模の公園。
「わあ…とっても綺麗」
見渡す限り菫色の海。
優しい風で、菫色の花びらが舞う。
「花を贈ろうと思ったんだが、こちらを勧められて」
「素敵なサプライズ、ありがとうございます」
なかなかやるわね。
すっかり魅了されてしまったわ。
私の瞳の色よね。好きだった色でもある。
吾郎さん、貴方にも見せてあげたい。
必ず見つけるから、待っていて。
「こちらに」
今度はエスコートされて、公園にあるベンチに導く。
こうしなさいって言われたの?
若い女の子なら、殿下にメロメロになっていたかも。
生憎、中身はおばあちゃんなの。残念ね。
「生ハムを挟んだベーグルだ。口にあえばいいが」
差し出されたのは、包紙に包まれた軽食。
ファーストフードなんて食べるんだ。
「いただきます」
!
美味しい!!なにこれ!アボカドかな?
外は硬めでも、中はふわうわのベーグル!
サワークリームが入っていて、とっても美味しい!
生ハムがいい仕事しているわ!クセになりそう!
「ふふ、気に入ったようだな」
気に入ったってもんじゃないわ!
毎日だって食べられそうよ。
明日コリンナと一緒に作ってみよう。
「とっても美味しいです!よく食べているんですか?」
「……時々城を抜け出して、街を歩く」
「え?お1人で?」
「内緒だぞ。変装をして屋台を回ったりする。これはその時に見付けて、気に入ったものの1つだ」
意外とやんちゃ君ね。
お城って窮屈なのかしら。苦笑しながら花を眺める殿下。
そうよね、公爵令嬢とい立場でも結構縛られるもの。
王族で王太子という立場なら、もっと厳しいかもしれない。
私の中で少し、王太子殿下の株が上がった。
最初のコメントを投稿しよう!