お散歩

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お散歩

「ラノベって言って、流行ってるのよ」 弥生から渡されたのは、普段読んでいる文庫本より半分ぐらいの薄い本。 手軽に読めるから良いのよと渡された。 「今時の言葉とか、分かってくると思うの」 題名はなんだったか……ストレートに「聖女と王太子」だったかしら。 日本から聖女として召喚された主人公が、王子様と結ばれるのが大筋。 王子様の婚約者である、伯爵令嬢があれやこれやと悪巧みをして邪魔すると。 「童話のようなお話ね」 カバーに書いてあるあらすじを見て、笑顔の弥生を見た。 「興味湧いた?読んであげる」 白内障を患って、見えづらくなった私の代わりに、「声優」になると頑張る弥生が読んでくれたっけ。  主人公は有栖、悪役令嬢はアリシア……ん? 王子様はアレックス……あれ? 国の名前はヴァルト…… ヴァルト王国の王太子様って確か、アレックス=ヒュウイ=ブロンディアって言うんじゃなかったかな。 偶然……にしては一致する点が多いわね。 読んでもらった本には、魔法が存在するって書いてあった。 「ねえ、魔法ってあるの?」 読んでいた分厚い本から目を離して、私の隣にいたいつもお世話をしてくれる、メイドのコリンナに話しかけてみる。 「ありますよ。神官様や魔導士様などが使います」 あるんだ、魔法。 ワクワクしてきたわ!他にも一致するものがあるのかしら! 「本を見に街に行きたいのだけど、いい?」 「旦那様に聞いて来ますね」 「ありがとう」 主人公有栖が出会うのは王子様のアレックス、騎士見習いのロイス。 重要な場面は街の噴水のある公園と、大きな図書館だ。 同じような場所があったら面白いわ。 外見7歳の私は、護衛騎士とコリンナと一緒に馬車に乗る。 活気のある市場、忙しそうに歩く商人。 中世の女性が着る裾の長いドレスで、颯爽と歩く姿。 「少し歩きたい」 馬車の中で見物なんて、もったいない! 「いいですよ、足元に気をつけてくださいね」 軽い体の小さな足で、少し凸凹している石畳に降りる。 絵本から飛び出したような可愛い家やお店、カフェテラスは弥生から聞いていたようなおしゃれな感じ。 見るもの全てがキラキラして見える。 こんな素敵な街を、吾郎さんと一緒に手を繋ぎならデートしたら楽しいだろうな。 彼の好きだったおはぎを作って、天気の良い公園で食べて。 本の話を時間も忘れて語り合うの。 コリンナと手を繋いで、そんな妄想に浸りながら歩いている時だった。
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