相性

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相性

堰を切ったように本の話をし出した。 あやの姿が重なる。 あの本はこういうところが良い、この本はこんな感じの本で素敵だの。 俺の気を引くために話しているのかと思ったが、本当に本が好きなようだ。 少し警戒心を解く。 あやと同じ、本の話になると夢中になる。クセだろうか。 本好きの女性なんてたくさんいるだろう。 そんな都合良く、彼女があやなわけがない。 だけど、久しぶりに聞く本の話は聞いているだけで楽しかった。 望まない婚約ではあるが、なんとかなりそうだ。 同じ趣味なら、話しもしやすい。 灰色がかった薄い茶色の髪も、菫色の瞳もあやとは似ていないが。 すぐ隣に座っているのに心地がいい。 屈託なく笑い、王太子相手だというのに構えもない。 案外俺と相性がいいのかもしれない。 シャロン伯爵が迎えに来るまで、穏やかな時間が流れた。 「どうでした?アリシア嬢は」  自室に戻って一息ついた頃、レオナルドがノックもなしに入室。 いつものことだから、咎める気も失せた。 「俺と相性は良いと思う」 「本当か?!よかったじゃないか!相性は大切だぞ!」 今度は敬語も忘れて、対面に座る。 幼馴染だし、今はメイドもいない。 「なんで、お前が嬉しそうなんだ」 「女の子に見向きもしなったじゃないか。本気で心配したんだぞ」 俺がアリシア嬢とあったのは、父上からの要請でだ。 関心があったからではない。 「以前だったら斜に構えて「別に」とか言ってただろ。よかった、人並みに男だったんだな」 お前の中での俺は、どんな人物像なんだ。 関心がなかったわけじゃない。 ギラギラしていたり見下してきたり、媚を売ってきたりするのが煩わしかっただけで。 王太子という立場が、彼女たちをそうさせていたかもしれないが。 「それで?次に会う約束はしたのか?」 「明後日に、シャロイン伯の屋敷へ行く」 「じゃあ色々手配しないとな。まず花は欠かせないぞ、それに相手はまだ子供だから、可愛らしいお菓子がいいな」 贈り物か。 顔を合わせていたのに、好みを聞いていなかった。 「任せろ!今流行っている菓子を手配してやる!」 自分の事でもないのに、張り切って何かをメモるレオナルド。 花か…彼女の瞳の色の花はあるのだろうか。 綺麗なスミレがいいな、地味か。 「いいんじゃないか。本当はお前の瞳の色がいいんだが。花束のリボンの色にでもすればいいや。アレックスらしくていい」 俺の「らしい」が分からなくなる。 楽しそうなレオナルドを他所に、花束を受け取ったアリシア嬢を思い浮かべて無意識に微笑んだ。
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