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コーディリア
屋敷から帰った私は今、お父様と睨めっこ。
「どうして学園に行きたくないんだ?」
「もう学ぶことなど、無いからです」
普段は優しいお父様だけど、こういう時は厳しい。
締める時は時は締める、いい父親だわ。
「……では、建国から今までの主要な出来事と年数を」
お父様が言い終わる前に、建国からの歴史に史実を加えながら説明。4歳からみっちり、この時のために学んできたんだから。
前世の記憶も役立っている。そこはちょっとズルだけど。
死刑を回避するためよ。
「なんなら、算学の競争でもなさいます?」
ちょっと生意気だったかしら。ごめんね、お父様。
死刑なんてなりたくないの。
「……分かった。ならば、学者のいる院に行きなさい。大人の学問を治めると言うなら、学園の入学は白紙にしよう」
「本当?!やった!!」
小さな手でガッツポーズ!
これで①の「学園に入学しないようにする」は叶ったわ!
院と言うのは、日本でいえば「大学院」にあたる施設よ。
勉強が嫌いじゃないのが救いね。
あとは②の事項を変更、「婚約を破棄する」に変えて。
「聖女 有栖」がこちらにやってくるのは、アリシアが15歳になったころ。学園に入学したその年だったはず。
王太子様は有栖を見て一目惚れをするのよ。
アレックス王太子殿下……第一印象は最悪。
本の話を柔らかくなった表情で、ずっと聞いてくれたのは正直悪くなかったかな。本の趣味が合えば友達として…だめよ。
関わったら、死刑の方へ流れて行きそう。
と言うより、その前にコーディリアに恋をしてもらうようにしなくちゃだわ。
あの可愛い栗毛にリボンをつけて、レースのドレスがいいわ。
やっと立てるようになったのよ。
こちらへ来る前に準備を整えておこう。
「コーディリア、もうおねむ?」
「うん」
もう結構な時間だ。
リボンやドレスの選抜に、知らないうちに時間が経ってた。
少しぐずる可愛いコーディリア。
『ねーんねん、ころーりよ、おこおろーりいよー坊やわあ良い子だ、ねんねーしなー』
疎開した先で子守を頼まれた時に、よく歌ってあげた子守唄を口ずさむ。お父様の前で日本語を喋ってしまった事があったけど、「本で読んだ外国語なの」と誤魔化した。
『その歌……おばあちゃん?』
「え?」
急に別の声が。それも日本語?!
『あやおばあちゃんなの?』
眠ったはずのコーディリアが大きな瞳を見開いて、茫然としている。
今『あや』って言った?!
『私よ!弥生!うわーすごい!転生したんだわ私!!』
上半身を起こした3歳児が、部屋をキョロキョロと見渡した。
『待って、嘘でしょ…弥生?』
『そう!さっき歌ってくれた子守唄で、思い出したの!』
泣きそうな顔で、抱きついてきた。
『あやおばあちゃんに会えるなんて……すごく寂しかったんだから』
温かいコーディリアの体温が、じんわりと伝わってくる。
この抱きつき方、間違いないわ。
『弥生ちゃん……いつも本を読んでくれてありがとう。貴女のおかげで入院生活も苦にならなかったわ』
『私こそ楽しかったの。おばあちゃんがうんうんって、なんでも聞いてくれたから。ありがとう』
再会に感動して、ひとしきり嬉しい涙を流し合う。
ああ、なんてことかしら。可愛がっていた曾孫に、また会えるなんて。
そうだ、ここがあの小説の世界なのか弥生にも聞いてもらおう。
国の名前や私の名前など、小説との類似点を説明した。
『あるんだね、転生って。まるっきりラノベの世界じゃない』
『そうなると、私アリシアは15歳で死刑になっちゃうのよ」
回避するためにすること、3つを説明。
『強制力がなきゃいいけどね。あの小説はゲームの「アリスのラブフォーチュン」っていうゲームを書籍化した本なの。私も協力するわ!』
今度はゲーム。
なんかややこしくなってきたわ。
明後日に、アレックス王太子殿下が来ることも伝えた。
王太子殿下とコーディリアをくっつけると言うのは、内緒にしておく。
仕向けるけど、ちゃんと恋をして欲しいもの。
『ほんと?!うわー!私、アレックス推しなんだよね。楽しみだわ!』
弥生ことコーディリアは、キラキラした目でうっとり。
計画を進めてもよさそう。
内緒話は日本語ですればいいし。
いい方向に進んでる!
王太子殿下には図書館の人になりたいって言ったけど、なれそうな感じ。
目指してもいいかもしれない。
この家は兄様が継ぐわけだし、コーディリアが王太子殿下に嫁げば、私は自由にさせてもらえそうだもの。
『弥生ちゃん。貴女の物語聞かせてほしいわ』
『ふふ、いいよ』
もと祖母と曾孫は、朝まで語り合う。
薄く開けたドアから、複雑な顔でコリンナが見ているのも気づかずに。
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