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そして訪れる決闘当日。
多くの観客で賑わう闘技場の中心部に立つユリアスは、雲一つ無い大空を見上げながら、大きくため息をついた。
「ついにこの日が来てしまった……」
ボソリと呟いた声は、周囲から喧しく響く観客の声で掻き消える。
多くの客で埋め尽くされた会場内を冷めた目で見つめながら、隣に立つ不可解な格好をした男女二人の方へと目線をうつした。
「──で、何であなた達は平然と私の隣に立ってるんですか?」
「何でって……応援に──ごほんっ。冷やかしに来たんだが?」
「いや、何でわざわざ悪い方に言い直したんですか……?」
むしろそれが本心か──?
だとしたら早急にお帰り願いたいユリアスだったが、アルスは「冗談だ」と笑いながら、例のモ●●ナを手渡してきた。
ユリアスは、それを嫌々ながら受け取りつつも「他に案はありませんか?」と無駄な催促を試みる。
しかし、彼から返ってきた返事は当然「NO!」であった。
少しだけ発音良く言えてるのが癪に触るが……少なくとも、今手渡されているこのブツに頼らざるを得ないのが実情である。
別の方法があるのならそれに越したことはないし、何ならこんなものはもう二度と飲みたくない。
しかし、依頼を請け負う者からそう言われてしまえば、それ以上口を挟む訳にもいかない為口を噤むしか無かった。
それに、いくらこの作戦が嫌だと言っても、あんな化け物相手に正攻法のやり方で勝てる筈も無いし、今から鍛えたって絶対に追いつけない。
何より、他に頼る人も物も無いので、ユリアス自身も「これ以外に無いな」と心のどこかで理解はしていた。
「少なくとも、これを飲めば大きな怪我をする事もないだろう。効果についてはこの前飲んだ際に検証済みだ。まぁ、毎日飲めばより強い効果を発揮していたのだがな……」
「死んでも御免ですけど!?」
──ただ、アルスから言われた「毎日飲め」という命には従わなかったが。
そんなやり取りを挟みつつ、ユリアスは一度大きく息を吐き、軽く深呼吸をする。
スキル【精神統一】で感情を落ち着かせながら、ごくりと唾を飲み込んだユリアスは、意を決して手渡されたモ●●ナを一気に流し込む。
直後、急激に心拍数があがっていくのを感じ、喀血する勢いで激しく咳き込んだ。
初めて飲んだ際に、嫌という程に味わった「命を削る感覚」が、今再び全身に染み渡ってゆく。
事実、命を削って力を底上げしているのだろう。ユリアスは飲み干した缶を適当に放り捨て、自身のステータスを表示させる。
【名前】ユリアス・グラウディウス
【種族】人間
【性別】女
【年齢】17
【レベル】178(+250)
【体力】99999 / 99999
【魔力】9842000
【攻撃】∞
【防御】15680
【知能】1500……w
【魔法】全属性魔法レベル100over(火・風・水・土)※MAX値=100
【称号】
異世界転生者
真の勇者
神の使者
エナドリ廃人
【スキル】
鑑定(レベル126)ステルス(レベル117)
精神統一(レベル100)
カウンター(レベル153)
クロスカウンター(レベル160)
遠視覚(レベル149)透視覚(レベル150)
想像(レベル150)
必殺(レベル218)抹殺(レベル178)
暗殺(レベル196)確殺(レベル213)
etc…………。
(──よし。いける。リュウトには追いつけていないけど、このステータスなら、前よりかは戦えるはず……! ただ知能の項目で単芝生やしてんのクッソムカつくけど……)
ステータスに表示された項目を確認しながら、以前よりも強くなっている事を認識する。
ただそれと同時に、あんまり変わっていない知能とそれに付随する単芝、「エナドリ廃人」とかいう嫌な称号など、色々とツッコみたい内容へと変化しているものもあり、ユリアスは苦虫をすり潰したような顔を浮かべた。
「そのモ●●ナはまだ試作段階だからな、多少のバグは許してほしい。その代わり、効果は絶大だ」
「それに伴う反動もバカにならねぇがな……。ユリアス、無理だけはすんなよ? 元より勝てる戦いじゃねーんだ。勝てないと判断した時は潔く引け」
肩に手を乗せ、そう励ましてくれるドラコの優しさが、今のユリアスには痛い程に沁みた。
ロクでもない人たちではあったけど、ここまで真摯に、自分の願いと向き合って来てくれた人は他にいなかった。
その事実に、ユリアスは心からの感謝を告げる。
それを聞いたドラコは優しい笑みを浮かべて、その場から去ろうとする。
しかしアルスは、何故かその場を動こうとせず、ユリアスの方を見つめていた。
一体どうしたのだろう。思わずそう声をかけようとしたその時、
「ユリアぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ユリアスの背後から少女の声が響いてくる。
その声に反応するように、ユリアスは後ろを振り向くと、此方へ一目散に向かってくる白髪の少女の姿を認める。
服装からして「良いとこのお嬢様」と思われる少女は、振り向いたユリアスの胸に勢いよく飛び込んだ。
「し、シロヴィア!? どうしてこんなところに……!?」
「シロヴィア? ってことはその子がオマエの言っていた友達か?」
「ふむ……可憐だな。どうですお嬢さん、私と一緒にラブなホテルにでもいきませんか?」
「出会って数秒でラブホ誘うとか頭沸いてんのかオマエ」
感動的な再会を醸し出す二人とは裏腹に、いつも通りの漫才を繰り広げるアルスとドラコ。
そんな二人に気がついていない様子のシロヴィアは、ユリアスの胸の中で玉の涙を溢しながら、幾度となく懺悔の言葉を繰り返した。
「ユリアっ、ごめんなさい……! わたくしのせいでっ、わたくしのせいで、こんなっ……!」
「シロヴィア……」
涙を流すシロヴィアの頭を、ユリアスは抱擁をかわしたまま優しく撫でる。
どうやらシロヴィアは、自分のせいで決闘が開催された事を酷く攻めている様子だった。
自分を庇おうとしてくれた友人が、死んでもおかしくない決闘に参加する。
それも自分自身の為ではなく、シロヴィアの為に──
逆の立場であれば、自分も彼女と同じように涙を流しただろうと考えるユリアスは、シロヴィアを責める事なく優しく彼女を抱きしめた。
「……あー、まぁその、アタシたちが口を挟むような事じゃねーと思うが、君がそこまで思い詰める必要は無いと思うぞ?」
「その通り。全ては性欲の赴くままに君を支配しようとした、リュウトという男が悪いのだ!」
「つい先ほどまで性欲に赴いていた人が何を言っているんですか……?」
まるで人のことを言えないアルスは、自身の発言を棚に上げつつリュウトに全てを擦りつけた。
しかし、アルスもドラコも本心からそう思っているのは事実だ。
リュウトがシロヴィアにちょっかいかけなければこんな決闘なんか起きずに済んだし、わざわざ表の世界に足を運ぶ必要も無かったのだ。
まったくとんでもないクソ野郎だ──とアルスもドラコもそう吐き捨てようかとした時に、シロヴィアは彼ら二人の発言を否定するように首を振った。
「いいえ、お二人とも……悪いのはわたくしなのです。わたくしがっ、あまりにも、あまりにも──!」
「お、おいオマエ。あまり思い詰め過ぎるなよ。そこまでして自分を責めなくても……」
「──あまりにも美し過ぎるからっ……!」
「……ん?」
「は?」
「ああ……」
シロヴィアの発言に、その場にいた誰しもが耳を疑った。
……否。約一名ほど、シロヴィアという少女がどんな少女であるかを理解している、ユリアスを除いて。
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