第二話【依頼人:ユリアス・グラウディウスの願い】決闘編

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「わたくしがあまりにも美しすぎるから……! それに15歳という年齢にしておっぱいがあまりにもでっけぇから……! だから……!」 「悲観的にモノ言いながら年齢と胸でマウント取りにいく女初めて見たわ」 「年齢と言えども、たった二歳差だがな。……あ、でも転生してるってことは、中身の方の実年齢と、転生してからの年齢を足すと、結構年齢がいってる事に……?」 「おい! それ以上言うとマジで殺すぞ!!」  アルスがこれ以上言ってはならない事を言おうとしているので、己が出しうる渾身の魔力を身に纏い威圧する。  しかしアルスは「はいはいw」と肩を竦めて仕方なさそうにしているだけで、彼のちゃらけた態度は変わらなかった。  とりあえずこの決闘が終わったら心置きなく殺してやろう──  そんな感じで今後の方針を固めたところで、ユリアスはヤバそうな雰囲気を放つシロヴィアについて、情報提供がてら軽く話す事にした。   「彼女は見ての通りのお嬢様でして。ご両親からそれはもう異常な程に甘やかされていました。中でも父親のクランツさんがかなりの変人で、シロヴィアはその影響を色濃く受けているんです。そのせいもあって、色々と言動が変わってるというか何というか……」 「色濃く受けたって……もはや元の色わかんねぇくらいに変わり果ててんじゃねーのか? 率直に言って相当やべェぞこの女」 「まぁ、人間何に染まるかなんてわからんからな。『清楚系で通っていた彼女が、いつの間にかヤンキー男にNTRれて黒ギャル化してた』系のエロ同人ばりに、人というものは変わってしまう。──しかし、それが人であり、人間の(さが)である。悲しいものだな……」 「何『上手いこと言った』みたいな雰囲気出してるんですか?」  ユリアスの冷ややかなツッコミに対して、アルスはフッと気取った笑みを浮かべて誤魔化した。まったく誤魔化しきれていないが。  クズのスマイルほど癪に触るものは無いなと思うユリアスは、暴発しそうになる怒りを何とか抑え込む。  これを爆発させるのは何も、今では無い。 「──それにしても、あなただったんですのね。ユリアが言っていた『願いを叶えてくれる零魔導士』様とやらは」  深呼吸を繰り返し、怒りを落ち着けるユリアスとは対照的に、落ち着いた様子でアルス達に話しかけるシロヴィア。  アルスとドラコは、普段地下に篭っての生活を送っているので、こうして人と話す事は滅多にない。  ドラコに至っては、数百年ふりぐらいに人と話したレベルだ。因みにユリアスは「人」の括りには入れていない。 「あー……とりあえず自己紹介だけでもしとくか。アタシはドラコーン・フロガ・アフトクラトラス。長ったらしいからドラコでいい、よろしくな」 「私の名はアルスマグナ・スペム・ペルフィキオだ。私の方も長いからアルスと呼ぶか、もしくはアルスお兄ちゃんとでも呼ぶといい」 「テメェのどこにお兄ちゃん要素があるんだ?」 「むしろアルス呼びより長くなってますけど……」 「アルス様にドラ公ですわね! わたくしはシロヴィア! 断崖絶壁(ユリアス)ともどもよろしくお願い致しますわね!」 「アタシこいつ嫌いだわ」 「私はたった今友人関係を放棄したくなりました」    ──と、かなり舐めた態度でドラコを呼び捨て、ユリアスに対しては不本意な呼び名で呼び、唯一アルスのみを様付けで呼んだ。  何故こんな変態を様付けで呼び、自分は●公と畜生のように呼ばれたのか。  腑に落ちない様子のドラコは今にも飛びかかりそうな勢いでシロヴィアにメンチを切る。 「ふざけんなよコラ。なんでこのクズだけ様付けして呼んでアタシはドラ公呼びなんだ。言っとくけどテメェなんざ一秒あれば粉微塵だ。あまり調子こいてるとぶち殺すからな?」 「どうしたドラコ。子供相手にそこまでキレ散らかして。生理か?」 「オマエは今すぐ殺すわ」  シロヴィアに向けられた怒りは、そのままアルスへ移し替え、ブチギレたドラコの鋭い拳がアルスの顔面を的確に打ち抜いた。  血を盛大に吐き散らしながら吹き飛んでゆくアルスを地面へと叩き落とし、馬乗りになって殴り続けるその形相は、逆鱗を振りかざす竜そのものであった。  この状況を見るに、自分が口を挟んでいいとは到底思えないが、勢いが勢いだ。  このまま放っておくとマジでドラコがアルスを殺しかねないので、ユリアスは慌ててドラコに待ったの声をかけた。 「ちょ、ちょっと落ち着いてくださいドラコさん! 決闘参加者じゃない人たちが問題起こすのは流石にマズイですって! なんか周囲もざわついてますし!」 「悪ィ無理。今は無性に血が見てェ」 「フハハハ! やはり生理で血が足りてなかったのか! だから私の血でそれを補おうとぶふぇッ!?」 「学習する術を持たないんですかあなたは……!?」  何故ここで余計な口を挟むのか。  火に油を注ぐことに情熱を捧げているとしか思えないアルスの愚かしい行動は、ドラコの暴走をさらに加速させる。  結果として、客席からは困惑の声と、「決闘前の催しか?」という勘違いから、更に盛り上がる声とで分断された。  決闘開始前からかなりカオスな状況になっており、ユリアスは頭を抱えその場で蹲る。 「どうしたんですのユリア? もしかしてあなたも生理? トシの画像見ます?」 「見ねーわ!! あとナチュラルに異界の人物名を出すな!!」  別に今日が女の子の日では無いユリアスは頭を振り、此方を心配する様子で覗き込むシロヴィアの方へと向き直った。  ──そもそも、今日彼女はここへ来ないという約束だった筈だ──と。    昨日彼女に話した内容を思い出す。 「……何でここに来たんですかシロヴィア。あなたがここに来ると、いよいよ逃げ場が無くなる。私だって全力を尽くして戦うつもりですが、勝てる確証は無いんですよ?」  勝てる見込みは限りなく少ない。  もしユリアスが負ければ、シロヴィアは文字通りリュウトの『モノ』になる。  女性関係で、色々と問題を起こしている彼だ。  もしここで自分が負ければ、シロヴィアがどうなるかなんて──想像せずとも、結果なんてわかりきっている。  仮に、その最悪な結末になってしまったら、いよいよ彼女を救う事なんて出来なくなる。  ユリアスの願いは、果たされずに終わってしまう。 「……シロヴィア。悪いことは言いません。今すぐにでもここを出てください」  肩を掴み、必死に懇願するユリアス。  しかし無情にも、その願いを引き裂くようにして、一人の男がその地を踏み鳴らした。 「──そうはいかない。何故ならもう、僕が来てしまったからね」 「ッ……!?」  後ろから聞こえてくる、「二度と聞きたくない」声。    振り向くよりも先に、ユリアスを遥かに超える圧倒的な魔力が、彼女の首筋をなぞり、背筋を凍り付かせる。 「……ついに来ましたね、私の倒すべき、敵ッ……!!」  それでも彼女は、己の心を奮い立たせ、立ち上がって声の方向へと振り向いた。  反対側の入場口。そこからゆっくりとした所作で此方に歩み寄ってくる、黒衣に身を包んだ、黒髪の少年の姿。  彼の名は「リュウト」。  この世界に転移し、神より与えられた超チート能力により、たった1ヶ月でSランク冒険者となった、正真正銘の化け物である。 「ふふ……。逃げ出さずに来たことは褒めてあげるよ。でも、君は僕には勝てない。それは君が一番理解している筈だよ? ユリアス」 「だったら何ですか? 勝てないからって、逃げ出す理由にはならないでしょう? ……それに私は諦めた訳じゃない。絶対にあなたを倒して、シロヴィアを守る……守ってみせます!」 「ユリアっ……!」  ユリアスの啖呵に対して、リュウトは冷ややかな態度で返す。    所詮は雑魚の戯言だ、と言った表情を浮かべるが、それをすぐに引っ込めてシロヴィアの方へと視線を向けた。
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