第一話【依頼人:ユリアス・グラウディウスの願い】

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「──では改めて自己紹介といこうか。我が名はアルス。アルスマグナ・スペム・ペルフィキオ。この魔道具雑貨店を経営するオーナーでもあり、伝説の零魔導士として名を馳せた張本人だ! よろしく、お客人」 「名を馳せたって、それを自分で言うのかよ。……あー、はじめまして。アタシの名はドラコーン・フロガ・アフトクラトラスだ。まぁ長ったらしいからドラコでいい。よろしくな」 「ああ、ええと、はい……。私はユリアス。ユリアス・グラウディウスです。一応転生者です、よろしくお願いします……」  机を挟み、お互いに革張りのソファーの上で自己紹介をし合うが、その空気感は最悪だった。あんな衝撃的な出会いを果たしてしまったのだから、当然といえば当然である。    目の前に座る変態と、その隣に座るドラコと名乗る謎の美幼女。少なくとも、彼女がいるから先ほどの最悪な空気感が浄化されたと言える……が、やはり目の前の変態が目に毒だ。正直なところ、お願いなんてほっぽってさっさと帰りたいというのがユリアスの本音だった。 「いや、先程は本当にすまなかった。ウチのゴミ虫の見苦しい姿を見せちまってよ」 「ハッハッハ! 何を言う! どこをどう見ても美しい、この私が見苦しいと!? 馬鹿を言うな、美しさだけでいえば私の右に出るものはいない!」 「それ以外で出るものがあり過ぎてひたすらにドン引いてるんですけど、それに気付いていますか……?」  冷めた目で見られている事などお構いなしに、自分自身の美しさについて熱く語る変態。  17歳の少女相手に恥部を見せ、羞恥心を感じない変態なんかに美しさなど語られたくないと思うユリアスだったが、とりあえず黙っておくことにした。この変態の言うことに一々反応するのが何か癪だからだ。 「ふむ。まぁ私の美しさが原因で君を不快にさせてしまったのなら謝ろう。それにしても、美しさも極まると、こうして忌み嫌われる事にも繋がるのか……。勉強になった」 「あなたの美しさは認めますけど、あなたの言動全てが酷く醜いんですよ。今もなお半裸なのもどうかと思いますし……!!」 「半裸? そうか? これぐらいなら、 T.M.Revolutionレベルの露出具合だから大丈夫だろう?」 「MVだからってのと西川貴教だから許されるんですよあの格好は!! 普段着あれだったら素直に引きますよ! ……っていうか、何でT.M.Revolution知ってんですか!? ここ異世界ですよね!?」  ユリアスの疑問は最もなものだったが、そんな彼女の質問に答えること無く、アルスはドラコに投げつけられた服を着よう……とはせずにそのまま話を続けた。 「さて、戯言はいいからとっとと依頼内容話してくれない? 私も暇じゃないんでね」 「何なんですかこの人……。妖精たちの刺激受け過ぎて頭おかしくなっちゃった系の人……?」 「どんな系統の人種だよそれは」 「フハハハハ! カゲキで最高、だろう?」 「ただひたすらに最低ですけど……。っていうか、いつまでその状態でいるつもりですか? 早く服を着て……っておい! 乳首を弄るな! なにWHITE BREATHみたいな動きしてるんですか!?」 「──凍えそう……」 「なら早く服着ろや!! 出すとこ出してたわわになるのは夏だけでいいんですよ!!」 「いい加減T.M.Revolutionから離れて話進めろよオマエら……」  ドラコからのごもっともなツッコミを聞いてハッとするユリアスは、自身がここに来た理由を思い出して小さく咳払いをする。  ここに来たのは何も、こうして談笑する為でも、T.M.Revolutionについて語りに来た訳でも無い。  己が願いを叶える為──否、叶えてもらうためにここまでやって来たのだ。ユリアスはそれを思い出し、先ほどの空気感を払拭するように話を切り出した。 「……私がここへ来たのは、私のある願いを叶えてもらうためです。報酬については、私にできることであれば何だって致します。ですので──」 「ちょっと待て。……とりあえず確認させてくれ。ここはこのバカが経営する魔道具雑貨店。上に住む連中もそんな噂を流してたと思うが、オマエはその噂を聞いてわざわざこんなとこまで来た。……ってことは、ここがどんな店なのか、理解してるってことか?」  話を続けようとするユリアスに待ったをかけるドラコは、確認を取るようにある質問を投げかけてくる。  その質問に対してユリアスは、腹を括った表情でゆっくりと頷いた。 「はい。……この店は、来た人の願いを、零魔導士アルスマグナの力で叶えてくれる──  夢叶代理人(ペルフィキオ)がいる店だと聞き、足を運んだ次第です」  夢叶代理人(ペルフィキオ)。  それはアルス自身を現す真名でもあり、そしてアルスの本当の姿とも言える。  何故彼がそんなことをしているのかについては、ユリアスは知らない。友人から聞いた噂話程度でしか無い情報で、それ以上のことはわからなかった。  ただ、その噂話でしか聞いた事の無い存在が、今目の前に実在している。  彼女の目と鼻の先で、せっかく着た服を再び脱ごうとしている黒髪ロングの変態こそが、夢叶代理人(ペルフィキオ)であり、伝説の零魔導士アルスマグナである。
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