第一話【依頼人:ユリアス・グラウディウスの願い】

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 正直その事実だけで自殺できそうだ、と一人ごちるユリアスは、正面に見据える変態に対して、自身の叶えてもらいたい願いについて語り始める──    「ふむ。なんか話が長くなりそうだな……。ドラコ、話終わったら教えてー」 「いや聞けや!! 依頼受けて願い叶えんのオマエだろうが!! 何してんだコラぶち殺すぞ!!」 「借金の取り立て屋みたいになってますよドラコさん……」  ……と、人の話を聞く気が無さそうなアルスの為に、ドラコが仕方なくユリアスから依頼内容を聞き、それを要約してアルスに聞かせる事にした。    いわく、友人であるシロヴィアとの買い物途中に、変な男に声をかけられたのだと言う。  そしてその男というのが、今回彼女の依頼内容の核となる存在──異世界に転移してきた「リュウト」と名乗る男だった。  そんな異世界で転生者を殺そうとして打ち切りにあってそうな名を持つ男は、約1ヶ月前くらいにこの世界に転移してきたらしく、転移してきてからすぐに冒険者となり、1週間でAランク、そして約1ヶ月でSランクにまで到達した、正真正銘のチート野郎との事だった。 「その男は、私と買い物中のシロヴィアに対して執拗に声をかけてきました。彼女も困った様子だったので、私があいだに入って彼を追い返そうとしたんですけど……」  彼女の表情が僅かに歪む。  ユリアスが言うには、追い返そうとしてきた彼女に対し、攻撃を仕掛けてきたという。    ユリアスも転生時にチート能力を与えられていた為、攻撃を受けたとしても即座に回復魔法で回復させる事はできた。  だが、回復できたとしてもその時感じた痛みや恐怖心、そして「この男には絶対に勝てない」と思わせる程の強い圧を同時に感じたと語った。 「けど、そうなったら尚更引けないじゃないですか。こんな乱暴な男にシロヴィアを渡す訳にはいかない。だから私は、絶対に勝てない相手だとわかっても引きませんでした。……そしたらヤツは、多くの人が行き交う中でこう言ったんです」  ──シロヴィアをかけて、貴様に決闘を申し込む、と。 「……バカじゃねぇの?」 「いやうるせぇわ!! バカみてぇな話なのはこっちも重々承知ですよ!! でも事実だから仕方ないじゃないですか……! こっちだって、まさかこんな下らない理由で決闘を申し込まれるとは思ってもみませんでしたよ!」  アルスが冷たく吐き捨て、それに対してユリアスは憤りを隠す事なく爆発させる。  要するに、そのリュウトという男がシロヴィアを気に入ったから、邪魔してくるユリアスに決闘を申し込んで、皆の前でコテンパンにしてやろう! んでその後でシロヴィアを自分のものにしてやろう!……という、そんな流れらしい。  そしてユリアスはそれに対して「受けて立つ!」と言ってしまった。シロヴィアを守る手前、彼女自身も王都では名の知れた冒険者だ。    ここで引けば冒険者としての名に傷がつくし、何よりシロヴィアと友人でい続けることは出来ない。  だから仕方なくその決闘を受ける事になったのだが、ユリアスはそれについて酷く後悔しているようで……。  まぁつまるところ、「自分以上のチート能力者が相手なので、自分でも勝てるよう便利アイテムでも何でも用意してよドラえもーん!」という話なのであった。 「とまぁ、そんな感じなので……。何とかなりませんかね?」 「ならないな。よし、帰れ帰れ!」 「いやちょっとは考えて下さいよ!! そんなノールックで依頼拒否してくることあります!?」 「あー、これは噂で流しちゃいねぇのか……。ユリアス。先に言っておくが、コイツかなり仕事選ぶぞ。自分が出来ないって思った仕事はやらねぇし、何より『コイツの願い叶えて自分の立場悪くなるの嫌だな』って思った場合、その仕事もやらねぇ」 「想像を遥かに超えるクソ野郎じゃないですか!! 自分より目立つヤツが気に入らなくてイジめるタイプのゴミですよ! 性格がうじ虫みてぇに汚ねぇヤツですね! さっさと死んだ方が世のため人のためになるんじゃないですか!?」 「いやオマエも相当だろ……。性格悪ぃと判断した後の手の返し方どうなってんだ?」 「手のひらギガドリルブレイクとは、まさにこの事……。勉強になった」 「そんな比喩聞いたことねぇよ!! つーかオマエさっきから勉強になったって何の学びを得てんだ!?」  またしてもドラコが当然の疑問を浮かべるが、それについてこの変態が応える筈もなく、アルスは人差し指を口にあてながら「秘密♡」と言った。  ドラコはそんなアルスの人差し指を、容赦なく左向きにへし折った。 「ぐおああああああああああ!!?」 「悪ぃなユリアス。とりあえずその依頼受けるから、今から用意する書類にサインしてもらえるか?」 「わかりました。あ、でも今ハンコとか無いんですけど大丈夫ですか?」 「ああ、無いなら拇印でいいぞ」 「ねぇちょっと待って? この状況で私無視するの無理じゃない? 私この店のオーナーぞ?  夢叶代理人(ペルフィキオ)ぞ?」 「アハハ、無様ですね。とりあえず依頼受けてもらえるって事なんで、リュウトとか言うクソ野郎を倒す方法を考えて下さい、今すぐに」 「なぁドラコ、この女冒険者じゃなくて鬼じゃないの? 鬼舞辻無惨の血流れてない?」 「上弦でも下弦でも無ぇが、厄介な依頼人であることは間違いねぇだろうな……」  ドラコとしては、このユリアスという少女からヤベー雰囲気を感じていた。  なので「さっさと依頼受けてさっさと帰ってもらおう」という方向で動くことにした。目配せでアルスにそう告げると、アルスも納得したようで急いで指を治し、「直ちにとりかかります」とヘコヘコしながら頭を下げる。  ──しかし。ユリアスを悪として自分達を棚に上げている二人であるが、この二人も世間一般的に見たらフツーにいかれポンチなので、結局のところ「どっちもどっち」である。  依頼してきたユリアスも、そしてその依頼を受ける側であるアルス達も、双方どちらともイカれてる──  その時点で、この小説がろくでもない結末を迎えることは、読者も察するところだろう。
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