第一話【依頼人:ユリアス・グラウディウスの願い】

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 ──それから暫くして。  再び部屋に(嫌々)招き入れられたユリアスは、先ほどと同じようにアルス達と対面する形でソファーの上へと座る。  そこで改めて彼女の願いを聞く二人は、机の上に置いた一枚の紙に、その願いについての詳細を書き出してゆくことにしたのだが……。 「……書き出していくごとに絶望感が浮き彫りになっていくんだけど。なんだこれ、ショッカー一人で全ライダーに戦い挑むようなレベルじゃん。勝てるワケ無くね?」 「それだとアルスさんがショッカーと同等の戦力ということになりませんか……? っていうか、流石に零魔導士ともあろうお方がそこまで弱い筈が……」 「? 何を言っている。私の戦力はショッカー以下だが?」 「想像を遥かに超える雑魚だった!?」 「つかそれだと何になら勝てるんだよオマエは」 「羞恥心」 「むしろ負けてんだろうが!! 恥を知れ恥を!!」 (そりゃリュウトより強い人とは思ってはいなかったけど、まさかここまで弱いとは……)  何故かドヤ顔でそう言い切るアルスに、ユリアスは一抹どころでは無い不安を感じる。ちなみにだが、ショッカーは組織の名前であって、皆が想像しているであろう黒服を着たショッカーの正式名称は「ショッカー戦闘員」である。覚えておこうね!  さて、それはさておき「リュウトとの決闘」についてだ。  決闘は今日からあと4日後に開催されることを考えると、残された時間は限られている。  決闘当日までにリュウトを倒す方法を見つけ出さなければ、彼女の冒険者としての地位は文字通り地に落ち、そして救いたいと願う友人はヤツの手に堕ちることになる。  自分はどうなってもいい。ただ、この世界に転生してはじめて出来た友人であるシロヴィアが、あんなヤツの手に堕ちる事だけは何としても阻止したかった。  だからこそ、ヤツを倒す必要があるのだが……。書き出してゆく度に、「リュウトに勝てない」という事実だけが重く、積みあげられてゆく。  もうどうしようも出来ないのか。  怒りやら自身への不甲斐なさに震えるユリアスに、目の前に座るアルスはため息混じりに呟いた。 「──まぁ、勝つ方法なら既に見つけているんだがな」 「……え?」  思わず顔を上げる。  今にも折れかかっていた彼女の心は、アルスの一声によって吹き返した。  勝つ方法がある? 自分以上のチート能力を持つ、あの男に──!?  ユリアスは、僅かな希望に手を伸ばすように、アルスという歪な光の元へと視線を向けた。 「か、勝つ方法なら見つけているって……そ、それは一体……!?」 「落ち着けユリアス。物事には順序ってものがある。それをすっ飛ばして、いきなりエッチなことに走ろうとする童貞特有の思考回路は、いずれ身を滅ぼすぞ」 「話の流れをぶった斬ってボケぶっ込んでくるオマエの思考回路はどうなってんだ?」  ドラコの冷ややかなツッコミを聞き流し、アルスは少し身を乗り出してユリアスに訪ねる。 「……まともな策では無いが、乗ってみるか?」 「アルスさん……」  ──むしろまともだった事なんてあるのか?と失礼にもそう思うユリアスだったが、残された選択肢は限られている。  というよりもうこれしか無いので、ユリアスは彼の語る「策」とやらに乗ることにした。  それを聞いたアルスは少し含みのある笑いを溢してから、店の奥へと引っ込んだ。 「……一体何なんでしょう、アルスさんの言う策というのは」 「まぁロクなもんじゃねーことだけは確かだな。……死ぬなよ、ユリアス」 「生死を分かつレベルの策なんですか!?」    まさにデッド・オア・アライブ。  どちらかというとデッド感の方が強めの選択肢をとったユリアスは、とりあえずアルスが戻ってくるのを待った。
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