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それから数分後。アルスは何やら小さな木箱を持ってきた。そしてそれを机の上に乱雑に置く。
「な、何ですかこれは? 中には一体何が……」
「言っただろう? これが『勝つ為の策』だ。なに、安心するといい。これは君たち冒険者なら誰もが知ってるアレだ」
何やら含みのある笑いを溢しつつもユリアスにそう説明するアルス。
カツカツとした、何やら金属がぶつかり合う音が聞こえる事から、小型ナイフとか、そういった武器の類だろうか。
そう思案しながら、もう少し音に集中してみる。すると箱の中からは、僅かにチャプチャプとした音も聞こえる。
「……もしかして、ポーションとかエリクサーとか、回復・身体強化系のアイテム?」
「ふむ。半分正解で半分外れだな。まぁ、見てもらった方が早いか……」
アルスはそう言うと、箱を開けて中身を取り出した。一体何が入っているのだろう?と、ユリアスは心を僅かに躍らせる。
少なくともここは魔道具雑貨店なので、冒険者の役に立つ物が売っているのは当然である。
ただここはどう考えても普通の店では無いので、そういった類の物は売っていないと、ユリアスは勝手にそう判断していた。
しかし、物が売っているのであれば話は別だ。
あの伝説の零魔導士が販売しているアイテムであれば、リュウトに対しても一矢報いる事だって出来るかもしれない。
期待と不安。その両方が相反する心境の中、アルスが取り出した物。
──それは、黒を主としたカラーリングで、表面には巨大な怪物に引き裂かれたような、三つの爪痕が残された缶だった。
そしてその爪痕の表面は緑色をしており、よく見るとMONSTERと禍々しく記された──
「いやこれモ●●ナじゃねーか!! なに平然と異界のエナジードリンク取り出してんすかアンタは!?」
「モ●●ナ? エナジードリンク? ……はて、一体何のことやら。これはこの世界で広く愛飲されている、ポーションやエリクサーに名を連ねる回復アイテムの一つだが?」
「コレに回復させるような成分は配合されてねーわ!! 仮にこれで回復した気がするんだとしたらそれはただの勘違いですよ!!」
「何を言う! これ飲めば脳内がスッと鮮明になるし、目は覚めるし体がよく動けてる感じがするし……何か回復した気がするだろうが! ただ少ししたら気が抜けてくるから、またこの回復アイテムでエナジーをチャージして……」
「抜けてるんですよエナジーが!! チャージするごとにエナジーが抜ける仕様になってるんですよその手の飲み物は!! 用法容量守れ!!」
エナジードリンクの飲み過ぎは体に悪いから、みんなもちゃんと用法容量を守って飲もうね☆
……と、エナドリの危険性を(適当に)伝えたところで本題に戻ろう。
「さて、このモ●●ナだが……」
「いや思いっきりモ●●ナって認めてるじゃないですか。何で一度否定したんですか?」
「これは私が独自に配合した特殊なモ●●ナでな。これを飲めば、あのバカみたいなステータスをしたリュウトだって倒す事ができるかもしれない。まさに諸刃の剣だ」
「無視かい」
ユリアスのツッコミを完全に無視して、箱から取り出した二本のモ●●ナのうち一本をユリアスへと渡す。
「ちなみにですけど、何を配合したんですか? ……あ、いややっぱ聞くのやめときます……」
「すり潰したマンドラゴラと、ガーゴイルの爪。あと隠し味としてウォールペンギンの唾液を少々」
「マジモンの化け物配合されてる!? あと最後の配合したらそれはもうモ●●ナじゃなくてセンチュリースープなのでは!?」
何だったら絶対にそっちの方がいい──のだが、当然これはアルスの冗談である。……マンドラゴラとガーゴイルの爪は「ガチ」だが。
それを再認識したユリアスは、「やっぱり聞かなきゃよかった……」と後悔するが、どちらにせよ他に選択肢は無いので飲む運命からは逃れられなかった。
「安心しろ。私も一緒に飲んでやるから」
「むしろあなた一人で飲んで欲しいんですけど……。それ飲んだ後そのまま息をお引き取りになってくだされば尚良しです」
毒吐くユリアスに対し、イケメンスマイルで返すアルス。思わず拳が出そうになるが、そこは必死に抑え込んだ。
「あー……。なんだ、キツかったら飲まなくていいんだぞユリアス。そのバカが配合したブツだ、最悪マジで死ぬ可能性だって……」
二人のやり取りを怠そうに眺めていたドラコが、ようやく重い腰をあげてユリアスを止めに入る。
このままだとマジでバカが作った汚汁を飲む羽目になるし、それが実行されるとなると後始末が面倒になる……という、かなり自分本位の理由であった。
当然、ユリアスのことが多少なりとも心配だから、というのもあるが。
「──いいえ、飲みます。……これを飲まなきゃ、リュウトを倒せないんですよね?」
「その通りだ」
(いやコイツ絶対に適当なこと抜かしてるだけだわ……)
しかし、ユリアスは止まらなかった。
何処ぞの鉄華団団長ばりの信念で、アルス特性の汚汁を飲むことを決意している。
ここまで来ると、いよいよドラコ一人では止められないので、黙って引き下がることにした。
まぁ自分には関係無いし──と。傍観者として事の顛末を見届けようと、心の中でそう決めた。
「……さて。では準備はいいか、ユリアスよ」
「は、はい……! では──」
一通りのやり取りを終え、静まり帰った店内の中。アルスとユリアスは、片手に掴んだモ●●ナ(異物混入)で軽く乾杯をする。
カシュ、と爽快な音と共に缶を開け、二人はアルス特性のモ●●ナを口の中へと含んだ。
そしてそれを勢いよく飲み干す二人は、同時に缶から口を離し、自身の肉体を確認する。
「……うーん、これといって変わった感じはしませんでしたけど。普通においしいモ●●ナでしたおぼろぐるぼぐっぼぼぼぶびべしゃぁぁぁ!!?」
「だから言っただろうが……」
何も異常は無い──筈がない。
ユリアスは(当然アルスも)その場で倒れ伏せ、逆流してくる異物を吐き出す。それはもう、今朝食べたパンやらシチューやら、その全てを吐き散らそうとしていた。
心臓はバクバクと強烈な音をたて、今にも破裂しそうだった。体内に爆弾でも放り込んだのかと、そう錯覚する程の衝撃を全身で味わう。
「ぐっ……ぐぼろろろろろろろろ……!!」
「なんだ……? グボロ・グボロのモノマネでもしてんのか?」
「ぶち殺すぞ……!!」
当然、頭に大砲を抱えた魚型アラガミの真似をしている訳ではなく、ただ純粋に飲み干したブツがあまりにも絶大的に効いた結果であった。
「……ぐっ、た、確かに、ステータスがあがってる気はしますけど……!!」
ユリアスは片手でステータスを表示させる。すると明らかにステータスが異常値を叩き出していた。これなら確かにリュウトに一矢報いる事が出来るかもしれない。しれないが……。
「ふ、ふふ……! 言っただろう? ごふっ……! これは諸刃の、剣だと……!!」
「その諸刃で死にそうになってたら意味ないでしょうが……!! アンタマジで頭おかしいんじゃないんですか……!?」
「それと言い忘れていたが……このモ●●ナは、決闘当日までに毎日一本飲んでもらう……! さすればリュウトをも超える絶大な力を得られよう……!」
「得る前に死ぬわ!!」
人を殺しにかかる事を平然と言ってのけるアルスに、残された最後の力を振り絞りツッコむユリアス。
しかし、ユリアスの意識はそこで完全に断絶される。ここに至るまでの過労とストレス、それにトドメを刺すかの如く、アルス特性のモ●●ナが効いた。色んな意味で。
決闘当日まであと4日。
ユリアスの願いを叶える──そう告げたアルスだが、こんな調子で本当に願いを叶えることが出来るのだろうか?
それについては、このクソしょうもない決闘を目の当たりにするものにしか知り得ない。
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