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「あけび質店の代表を務めています、福原美幸と申します。本日は足元が悪い中、ご来店ありがとうございます」
先程までと打って変わって真面目な落ち着いた表情で高原さまの正面に座った先生は簡単に自己紹介をして頭を下げた。普段からこれくらいしっかりしてくれたらいいのに。
「こちらは……」
先生はお茶を配る私の方に手を向ける。
「あ、助手を務めています、小野川ルリです。よろしくお願いします」
お盆を胸に抱え微笑みながら優しく自己紹介をする。さっきまで先生に対してイライラしていたのに、お客さま用の顔をしっかり作る自分をちゃんと褒めてあげたい。
お盆を壁際の本棚の上に置いて先生の横に座ると高原さまが自己紹介を始めた。
「高原、修司と、言います」
よろしくお願いします、と軽く頭を下げる。緊張のせいだろう、声がとても弱々しい。目にも力が入っておらず、伏し目であまり視線を合わせようとしてくれない。当店を訪れるお客さまは大体こんな感じだ。高原さまの気持ちを察してかリードするように先生が話を始める。
「早速ですが当店について説明を致します」
高原さまの背筋が急に伸びて顔が先生の方を向く。
「当店はお客さまの才能を担保にしている質屋になります。ご用はお間違え無いでしょうか?」
「は、はい」
高原さまが上ずった声で返事をするので
「ひとまずお茶をどうぞ。落ち着いてください」
私は慌てて声を掛ける。
高原さまはお茶を口にしてから「ふぅ」と一息ついてまた先生の方を向いた。
「説明に戻りますね。まずお客様の特技や能力について私が査定を致します。査定額に了承して頂けましたらお預かりとなってご融資となります。通常の質屋ですとお預かりの期間は三か月ですが、当店は特殊な質屋なので四週間の二十八日としています。そこまで大丈夫でしょうか?」
高原さまは「はい」と落ち着いて返事をする。
「お預かりしている間、一週間につき五パーセントの利息が発生します。例えば一万円だとすると一週間後には五百円、二週間後には千円、といった具合です。もし二十八日以内に質受け出来ない場合は質流れとなりますのでご注意ください。こちらから催促の連絡は致しませんのでご了承ください」
そこまで話すと、今度は先生がお茶を一口飲むので私も釣られて飲んだ。先生が話している間に少し冷めてしまったようだ。
「それで、本日はどの様な能力をお預かり致しましょうか?」
先生が机の上で指を組んで軽く微笑むと、高原さまは考え込むように下を向いてから顔を上げた。
「漫画を、描く、能力です」
自信が無さそうな声の割に意外な答えだった為、思わず先生と顔を見合わせる。確かに生活をする上では必要では無いだろう。けれど、そんな珍しい能力を預けに来るとは何か事情がありそうだ。
「少しお話頂けますか」
先生が落ち着いた声で話を促した。
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