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当店を訪れるお客さまは基本的に切羽詰まったお客さまが大半だ。それもその筈、才能や能力以外お金に換えられる物が無い人たちばかりだからだ。宝石や腕時計などを持ち合わせているのであれば普通の質屋に行くだろう。消費者金融に行く勇気はないが、それでもお金が必要。そんな人たちが最後に訪れるのが、あけび質店だ。才能や能力をお金に換えるなんて、いたずらにしか思えない事を書いてある怪しいチラシを一枚握りしめてやって来る。だから夢を諦める為に訪れた高原さまはとてもレアなお客さまだった。
高原さまの才能が質流れになって一ヶ月が経った頃、ひとりの女子大生が買いたいと申し出てきた。芸術大学に通っているというその女性は名前を藤本涼子と名乗った。髪はセミロングの黒髪にふわりとした内巻きパーマを当てて、これまたふわりとした花柄のワンピースを着て、女子大生が買えないであろうブランド物の高そうなバッグを手に来店をした。
バッグからは当店のチラシがちらりと見えている。日差しを気にして日傘もちゃんと使っているようだ。これから異性と食事でもするのだろうか?明らかに男受けだけを気にしているファッションから「本当に芸大?」という疑問が頭から離れない。
藤本さまは高原さまの才能を試し読みすると「素晴らしい」と心の底から褒めていた。
当店では才能を売るにあたってお客さまは先生と話をする事が決まりとなっている。
「私は女は若ければ若い程価値があると信じていて、女子大生ってある種のブランドだと思っているんです。だから女子大生の間に売れなくちゃいけないと思うんですよ。はっきり言って女子大生って言うだけで売れてる物、世の中に沢山あるんですよ。特に私がいる芸術大学なんてそう。卒業してから目立つ活動が出来て、芸術家として成功してご飯食べている人なんてほんの一握り。年を取ってから売れる人なんていない訳じゃないけど奇跡的です。才能がある人はみんな学生の内にセルフプロデュースが完璧に出来て、コネ作ってネームブランドで継続的に売れるんです。だから私は女子大生を最大に利用したい」
『女子大生』という単語が何回出てきたか数えるのが嫌になる。とにかくどんな手を使ってでも成功しようとしているのは確かなようだ。そしてこういうタイプは先生の大好物だ。
「藤本さまの熱意は伝わりました。では金額を提示致します。三十万円です」
一万七千円で買い取った物に対して、しかも女子大生相手にそんな高額な値段を提示するなんて、いくら何でもやり過ぎだ。
「分かりました。二週間以内に準備します」
自分の予想を裏切る自信満々の返事が返ってきてぎょっとする。先生を見るとにやりと口元が緩んでいるのが分かる。先生は藤本さまに名刺を渡して「次回は必ず名刺をお持ちください。またのご来店をお待ちしております」と頭を下げて藤本さまを見送った。
「本当に大丈夫なんですか?名刺まで渡しちゃって」
「大丈夫。私の目に狂いは無い」
「家がお金持ちなんでしょうか?芸術大学だし」
「いやぁ、あれはあまり良くない事して男から金貰ってるな」
「やっぱりそうですか」
そして二週間後、藤本さまは三十万円を手に来店をして高原さまの才能を買って帰った。
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