あけび質店

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 師走に入ったある日、先生宛に郵便物が届いた。開けてみると一冊の少年漫画雑誌と手紙が入っている。差出人は藤本さまだ。 「手紙読んでよ」  ストーブで暖められた部屋の中で最近買ったという着る毛布を着こんでいる先生は男性アイドル雑誌から目を離さずに言う。あまり興味が無さそうだ。 『あけび質店 福原美幸さま 小野川ルリさま  こんにちは。  夏に漫画を描く才能を購入した藤本涼子です。  この度、購入した才能を使って漫画コンテストに応募したところ最優秀賞を頂きました。  私の作品が掲載された雑誌をお送り致します。  楽しんで頂けると幸いです。  これから寒い日が続くのでお身体に気を付けてお過ごしください。  藤本涼子 改め 藤本りょう』  若い女性らしい丸文字の手紙を読み終えると、先生はアイドル雑誌を机に置いて送られてきた漫画雑誌を面倒くさそうに開いて藤本さまの漫画を読み始める。少年漫画雑誌を意識しての事だろう。男性とも女性とも受け取れる名前にしたようだ。  先生が漫画を読んでいる間、することが無いので先生の隣の椅子に座ると、壁に貼られたポスターのアイドルと目が合う。先生お気に入りの二人組のユニットだ。先月はこの子達のライブに行って風邪を貰ってきて寝込んでいた。四十(しじゅう)を過ぎているんだからいい加減にして欲しい。  そう考えていると先生は漫画を読み終わり「ふふっ」と笑った。 「どうでした?」 「まぁ読んでみな」  そう言うと先生はまたアイドル雑誌を手に取った。私は漫画雑誌を受け取って目次ページを開くと、大きく書かれた『最優秀新人賞受賞作!』という見出しが目に入ってくる。ページを確認して早速読んでみる。物語は人間の世界を挟んで神の国と悪魔の国が戦争をしている世界が舞台の様だ。  主人公は神の国の王さまの双子の息子で、ある日、人間の世界で悪魔と戦闘をする事になった双子はこれに勝利する。神の国に帰ろうとしたその時、弟が兄を悪魔の世界に突き落としてしまう。悪魔の世界に落ちた兄は神としての力を殆んど失うも怒り狂い、弟へ復讐するために悪魔として生きることを決意する。数年掛けて力を付けた兄は人間の世界に帰ってくることに成功、高校生として身を隠して機会を伺っていた。しかし、神の国の兵士に見つかり戦闘をすることになる。戦闘に勝利するもたまたまその場に居合わせたクラスメイトの女の子が巻き込まれ負傷してしまう。兄は僅かに残されていた神の力を使って女の子を救出するが悪魔の力が邪魔をして女の子は悪魔になってしまう。事情を聞いた女の子は再び人間になれることを信じて双子の兄と共に神の国を目指すことを決意。ふたりの戦いが始まるのだった。  漫画雑誌を閉じて「ふぅーむ」と鼻息を吐いてしまう。 「先生、これ……」 「パクリとか言っちゃ駄目よ。これが才能を買い取るという事なんだから」  ここに描かれているキャラクターはまさに高原さまの物だ。しかし、漫画としての世界観の深さや話のテンポ、心情の表現、それに背景の描き込みに雲泥の差がある。これは藤本さまが元々持っている才能なのだろう。さすが芸術大学生と言わざるを得ない。 「藤本さまはキャラクターだけ苦手だったんじゃないかしら。少年漫画向きの絵が描けないとか。その点で高原さまの才能はピッタリだったのよ。才能は使うべき人が使うとここまで評価が変わっちゃうのね。賞金も頂けるみたいだし安い買い物だったんじゃないかしら。それに……」 「それに?」 「持てる武器はちゃんと使ってるみたいよ」  「どういうこと?」と思いながら作者紹介を見るとしっかり現役女子大生と書かれている。やっぱり評価が三割増しくらいされているような気がする。
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