4人が本棚に入れています
本棚に追加
一本のヒマワリがラッピングされる間、僕は幸せな事に彼女の事をじっと見ている事が出来る。
こんなにも、近くで――。
細く長い指先、水仕事も多いせいからだろうか、彼女の指先には幾つかの赤切れが目立つ。
贅沢な時間を過ごす中、脳裏に浮かぶ一つの疑問――。
『どうして、あの猫は僕にあんなにも懐いたのだろう?』
真っ白いシャツに羽織ったカーディガン、腕と胸元へと視線を向けると細い毛が数本目に付く。
『あっ……、NANAの毛』
諦めかけた恋心を繋ぎとめてくれたのは、今も高台の丘のベンチで日向ぼっこをしている白猫のNANA。初めて僕の胸で眠ったあの猫の匂いが身体に染みつき、リヴは反応したのだ。
やがて丁寧にラッピングされた一本の花束――。
英字文字が綴られた紙の外側を透き通るフィルムで巻き上げ、深い緑色のリボンが巻かれていたその花を、彼女は両手で僕に手渡すと再び手話を行う。
彼女が何を伝えているのか全ては理解できなかったが、右手の指を揃え顎につけ、お辞儀しながら右手を前に出す仕草は分かった。
『お待たせ致しました――』
いつもの様に店先迄お客様を見送る彼女、いつもと違うのは高台で見守る事無く、僕は彼女の目の前にいる。
「……」
「……」
ほんの数秒向き合う二人の時間に沈黙が続いた時、僕は心からの言葉を振り絞る。
「ずっとあなたの事が……、好きでした」
「……」
彼女は僕の言葉を耳に驚きの表情を見せる。
「これ……、
良かったら受け取って下さい」
たった今、彼女がラッピングを終えたばかりのヒマワリを、僕はそっと差し出した。
最初のコメントを投稿しよう!