モノクロの世界だから君を見つけられた

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 駅前メイン通路から一筋入る裏通り、住宅に紛れ幾つかの小さな店が点在する中、一軒のフラワーショップの入口から大きな観葉植物の鉢植えを後ろ向きに引きずりながら開店準備を行う一人の女性。  重い鉢植えを両手で持ち、腰を屈めながら引きずっていたのだろう。元々背の低い彼女、その姿は僕の視界に入る事無く見事にぶつかった。正確には一睡もしていない僕の耳に鉢植えを引きずる音は聞き取れず、視線は手元の資料に注がれたあの瞬間、とても避ける事など出来るわけもなく、僕は自らの過失を認め声を上げた。 「ごめんなさい!」  鉢植えを抱きかかえるように尻もちをついたまま顔をあげた君は、痛そうにぎゅっと両目を閉じた直後、僕の存在に気が付いたのか、恥ずかしそうに頬を染め立ち上がる。  薄いブラウンに染めあげられた髪の上半分をかき集めたハーフアップ。真っ黒な下地に優し気なベージュ色の大きなポケットが付いたエプロン姿は、とても上品な大人の魅力を感じさせ、立ち上がると同時に微かに見えたうなじに思わず視線を逸らす。 「すみません。前をちゃんと見て歩いていなくて」 「……」  彼女は何も答える事無く、まるで花を購入した客を見送る様な優しい微笑みを浮かべ首を横に振った。 『はっ……』  不謹慎かもしれない。いや、気持ち悪いのかも……。五秒にも満たないこの瞬間、僕の心の奥は熱を帯びると同時に脳裏に想像もしない言葉が浮かんだ。 『可愛い――』と……。  店の奥から誰かが呼ぶ声をきっかけに、彼女は見つめ合う視線を逸らしたが、すぐさま振り返り不可解な素振りを見せた。 『お焼香?』  人差し指と親指で眉間をつまむ様な仕草、手を頭の正面に立て目線を下げる事無く前に倒しながら頭を下げる。意味不明な行動を呆気に見守る僕の視線から消えるように、彼女は店の奥へと駆けてゆく。  その後ろ姿をいつまでも見つめていた。 「あっ……、 講義に遅れる」
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