モノクロの世界だから君を見つけられた

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 都会の一画に設けられた自然保護公園には様々な遊具が設置されるが、人影はまばらだ。駅前通りと住宅街を見渡せるその小さな丘に並べられた七つのベンチ、青本と参考書そしてノートパソコンを手に、あの日から僕は毎日のようにこの高台へと通う。 「よっ! 何だ、今日もいるのか」  いつもの指定席、決まって僕よりも先にそのベンチに座る一匹の猫。七つ設置されたベンチで唯一南向きに設置されたその席、一日中暖かな陽射しを浴びる事を理解しているのだろう、僕が腰を下ろしても移動する事はなかった。 「おはようっ。NANA(ナナ)」  二ヶ月の間毎日呼びかける言葉、ようやく反応し微かに耳を動かす様になったが、振り返り視線を合わせる事はない。七つ目のベンチにちなみそう名付けたが、どうやらお気に入りではないらしい。  野性的な野良猫ではなく、何処からか逃げて来た雰囲気も無い真っ白い猫。首輪は無いが一度人に飼われていたのだろうか、凶暴さは一切感じられない。 「お前、もしかして捨てられたのか?」 「……」  僕の事は眼中にないらしい。僅か二メートル程の長さのベンチに座る僕と一匹の白猫。互いに干渉する事の無いその不思議な関係は丁度いいのだろう。それでも一度は仲良くしようと猫用のおやつを与えたが、警戒心、それとも好みの味ではなかったのか、口にすることはなかった。 「あっ……」  高台から視線を向けた一軒の店先に現れた天使。色とりどりのチューリップの花束を抱えた男性を見送る。 『きゅん』と熱くなる、言葉では表現できない胸の苦しみは、彼女を目にする都度痛みを増す。分厚い薬学事典を幾度となく開いても、恋の悩みを解決させる処方薬は見つからなかった。 彼女の事を想う気持ちはいつしか膨れ上がり、抑えきれない気持ちを落ち着かせる唯一のリハビリ治療は、時折店先に姿を現す君を遠くからじっと見つめる僅かな時間だった。
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