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翌日講義を終えた後に訪れたベンチ。いつもの様に指定席にはNANAの姿。
「よっ!」
「えっ……」
この日初めてNANAは反応し僕の瞳をほんの二秒ほど見つめた。
「あっ! NANAっ」
「プイッ」
「……」
どうやら一時の迷いの様だ、いつもよりNANAの表情が後悔に満ちているように思える。
陽射しの無い曇り空、天気予報が伝えた通りシトシトと小雨が降りだす中、ベンチで眠るNANAに動く気配はない。
「NANA、お前、濡れるぞ。風邪ひくよ」
「……」
本降りになる前に身支度をすませ立ち上がる僕を気にすることなく、静かに瞳を閉じるNANA。
「全く、お前は――」
古びた一本の折り畳み傘――、
僕はそっと広げると、NANAの座るベンチへとほどいた靴紐で結び付けた。
ゴミ袋で保護した教科書の入ったカバンを抱え、片足を引きずりながら家路へと急ぐ。どれほど急いで帰っても下着まで濡れるのに時間は掛からなかった。
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