4人が本棚に入れています
本棚に追加
いつものベンチ、昨日の雨は嘘のように晴天が広がる。公園の砂地は水はけが良いのか水溜まり一つない。
晴空の中滑稽に映るベンチに結ばれたままの折り畳み傘。暖かな陽射しを遮っているからだろうか、NANAはいつも僕が座る傘の無い左側を陣取っていた。
「よっ、元気か?」
「……」
お礼など期待してはいなかったが、もしかすると『ミャー』と鳴くNANAの声を聞ける気がした。
「ふっ、お前らしくていいや。だけどちゃんと気持ちは伝えないといけないぞ
」
ベンチに結んだ靴ひもを解き、真っ黒い折りたたみ傘をたたむ――。
「……、
……、
あっ……、もしかして――」
僕は手にした傘と靴紐を地面へと投げ落とすとすぐさま鞄からノートパソコンを取り出した。
「カタカタカタカタ――」
急いで両指から検索サイトへと入力された文字――、
そこには『手話の表現方法』と綴られる。
「……、
……、
……あった」
パソコン画面に映るイラストと、あの日、無言のまま彼女の取った行動を重ね合わせる。
人差し指と親指で眉間をつまむ様な仕草。手を頭の正面に立て、目線を下げる事無く前に倒しながら頭を下げる。
それは――、
お焼香でも、意味不明な行動でもなく。
「ごめんなさい」の手話による表現だった――。
『彼女は言葉を話せなかったのだ』
最初のコメントを投稿しよう!