光陰矢の如し

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光陰矢の如し

卒業証書の入った筒を自分の部屋の机にソッと立てた。今朝、2月の紙を破り捨て、3月になったばかりのカレンダーをバックに5分程ボーッと眺めてみる。 だが、何のカンガイも無い。この地区で1番頭の悪い高校に何とか滑り込んでダラダラと学校生活を送り、赤点ギリギリで卒業したというだけだ。そもそも、カンガイの意味もイマイチよく分かっていない。 光陰矢の如し 今日の卒業式で校長が言っていた。俺は全く意味が分からなかったのだが、『ゴト師』と聞こえたので、柄にも無く真剣に耳を傾けてしまった。俺の頭は英単語であれば全く覚えようとしないのに、覚えなくても良い単語はあっさり覚えてしまう。ゴト師というのはパチンコやスロットで不正をして金を稼ぐプロの事だ。高校を卒業したらパチンコ店に入る事もあるだろうから、ゴト師について何か教えてくれるのかと聞き入ったのに全く違っていた。よく考えれば当たり前だ。校長が公の場で犯罪行為を教える筈が無い。光陰矢の如しとは、時が経つのって早いね、みたいな意味で卒業式でよく使われる言葉らしい。 今の話で分かると思うが、頭の悪い俺は当然、大学なんて行けないし、かと言って働きたくも無い。親にはやりたい事があるからと言っている。まあ、嘘とも言い切れない。先輩や上司から文句を言われない職業って何があるんだと思い、少し前に調べたエブリスタとかいう小説投稿サイトを見て、これだと思った。テキトーに文章を書いて、大賞に選ばれれば3万円貰えるらしい。もっと高額な賞もあるが、腕試しとしては、これが調度良いだろう。 ただ、小説を書く事はおろか、本を読んだ記憶すら無いので、どうやって書けば良いのか分からないって話だったのだが、どうやら、昔話のような著作権が切れた話であれば真似しても問題無いらしいので、テンプレとして利用させてもらおうと考えた。 今回のコンテストテーマは『卒業』らしい。今日卒業式だった俺にとって、うってつけだ。取り敢えず、卒業式の日に書いたと言えば問題無いと思う。 何事にも下調べが肝心だ。俺は読んでもらえる小説というのはどんなものかを調べる事にした。 結果、女性受けする小説には『聖女』『婚約破棄』『イジメ』が必要で、男性受けする小説には『転生』『ざまぁ』『無双』が必要との事だ。当然、女性にも男性にも受ける小説を書いた方が良いに決まっている。この6要素を盛り込んだ小説を書けば賞を取れるって事なら余裕だと思った。 まず、掴みは何であっても必要だろう。最初から、アッと驚かさないといけない。主人公が人間の子では無い事にしよう。後はテキトーにマストの6要素をブッ込めば完成か? SFってのも取り敢えず入れておこう。 その後、俺は30分程度で小説を完成させた。
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