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「……あ……あの時。言ったね。……言ったけど、嘘ってすぐ」
「嘘だとしても」
鋭く被さるような声が、吉良の口から吐かれた。じっと、美都の目を見る。かきむしられるような、自分の胸の痛みが伝わるように。
「二度と、そういうこと、俺に聞こえるところで話さないで下さい。……例え相手が旦那さんでも、百瀬さんが他の男とヤった話なんか、もう絶対に聞きたくない」
美都の目が一度見開かれ、吉良から顔を背けようとして……思い直したように目を見返してくる。
「……わかった。ごめん」
複雑な感情が入り混じった美都の目。隠しきれない後ろめたさと罪の意識。それが、抗い難い光に見えて、誘い込まれる。
この、底のない淵に沈んでいきたくなる。
俺にはこんな性癖があったのか。自分でも知らなかった。
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