八つ当たり

2/3
前へ
/389ページ
次へ
 その場面には思い当たった。真菜香の話に合わせて、そんな心にもないことを言った。 「会えなくておかしくなりそうなのは俺だけなんだと思ったら、なんか……連絡できなかった……いや、違うな」  吉良は頬杖をついたまま、目を伏せた。 「……百瀬さんも、会えなければいくらかは苦しいのか。会いたくなってくれるのか、試したくなった」  淡々と、まるで他人事のように冷静に言われ、これが吉良本人の話なのか、わからなくなる。  ……試した?  怒るべきことなんだろうか。試された立場としては。  そう思って自分の内心を探ってみるが、腹立たしいという感情は見当たらない。  ソファの端と端。大きいソファだから、手を伸ばしても届かない。  その隔たりを挟んで、吉良が横目で美都を見た。 「……結果、どうでした?」 「結果?……兵糧(ひょうろう)責めの?」  美都がぽつりと言うと、吉良は面白そうに笑った。
/389ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2669人が本棚に入れています
本棚に追加