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「兵糧責めになったんですか」
「なったよ。……だから、親子丼、自分で作った。だしはとらなかったけど。めんつゆ使って」
美都の言葉を、吉良が黙って聞いている。
「でも、全然吉良くんが作ってくれたのと同じにならなくて。味も、食感も。悲しくなった」
こちらも、出来る限り淡々と。感情的にならないように、言葉を続ける。
「二度と、食べることないんだろうなと思って、悲しかった」
吉良の顔に、苦笑いが浮かんだ。そして、嘆息がこぼれる。
「まず食い物か。……まあ、狙い通りと言えば、狙い通りですけど……もうちょっと、耳触りのいいことも聞きたかったですね」
会いたかった。会えない時間が苦しくて、長くて、しんどかった。そう、言ってしまいそうになって、美都は葛藤した。
言いたい。その衝動をいつまで堪えられるか自信がない。頭の上から抑えつけてくる、良識とか、立場とか、罪悪感とか、そういったものの力は、どこまで続くのだろう。
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