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ゴールじゃない
美都は脱衣所の鏡で、風呂上がりの自分の姿を確認した。
先週買った、ふわふわで手触りのいいナイトウェア。つい衝動買いしてしまった。細身の自分の体を、うまく柔らかく形作ってくれている。
鏡の中の自分の表情が陰っていて、慌てて笑顔を作った。
つけたまま寝られるパウダーも叩いたし、ナチュラルな淡いピンクのリップで血色もよく見える。
よし、と気合いを入れて、脱衣所の照明を消し、廊下を歩く。我が家の廊下なのに、まるで闘技場にでも向かうように深呼吸する。
リビングのドアを開けると、三人掛けのソファーにもたれてスマホを見ている恭太の姿が目に入った。
艶のある、真っ直ぐな髪を煩わしそうにかきあげている。睫が影を作って、黒い瞳がより黒く映えていた。
どう自然に隣に座るか……散々頭の中でシミュレーションしたが、緊張は抑えられない。
ただ、夫の隣に座るだけだと言うのに。
美都は付けっぱなしのテレビに目をやりつつ、恭太の隣に座った。
「……あー、この俳優、名前なんだっけ。前、NHKのドラマ出てたよね」
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