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その道は続く
遠くの方で微かに泣いている声が聞こえる
声のする方へ歩みを進めると一本のユズリハの木の下に小さな子猫が丸くなって泣いている。
「どうして泣いているんだい?」
「……わからない、わからないの」
「きみはどこからやって来たのかな?」
「どこから……わからない。でもすごく悲しくて涙が止まらないの」
「それじゃあ、きみの涙をぼくが半分もらうことにしよう」
怯えて震える子猫にそっと優しく寄り添った。
悲しみや不安がぼくにも伝わって自然と涙が溢れ出す
どれくらい泣いたのだろう
ふたりで寄り添い合って涙を流した後、子猫はゆっくりと顔を上げた
「わたし帰りたいの。どこへかはわからない、わからないけど帰りたい」
「それならぼくが手伝ってあげよう、ほら行こう」
ぼくがそう言うと子猫はコクリと頷いて歩き出す
長い一本道をひたすらふたり並んで歩いていると一羽のカラスが木の枝にとまっている
「もしもし、そこのあなた、この子がどこの誰だか知ってるかい?」
「あたしにはわからない。だけどその子はりんごが大好きだったことなら知ってるよ」
「りんご……?」
「そう、歪な形をしていたり傷はあるけど、とびきり甘いりんごよ」
「そうだ。わたしりんごが大好きだったの……なんだか懐かしい」
そして子猫はまた泣いた
大好きな味を思い出して噛み締めるように
「あたしが知ってることはもうないわ。さぁ、お行きなさい」
カラスは羽を広げると空高く飛び立った
まるで子猫を先導するように。
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