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珠希のジャージに着替えてリビングへ戻った途端、俺は何故か珠希の膝の上に乗せられ、そのまま彼の腕の中に閉じ込められてしまった。
珠希の体格は俺より逞しくて、簡単に俺を逃げられなくしてしまう。
「あの、た、珠希、……これは、いったいどういう状況でしょうか……?」
尋ねれば、くすくすと愉しげな笑い声が聞こえてきた。
「あはは、なんで敬語?俺のジャージ着て萌え袖になってるめぐが可愛いから愛でてんの。」
耳元で囁かれた低い声に、どくんと心臓が大きく跳ねる。
珠希は甘い。ケーキの一部が舌に触れれば当然甘さを感じるが、口以外の場所へのキスや声音だけで俺に甘さを感じさせるのは、この世で珠希だけだ。
けれど、その甘さを感じるたびに、俺はひどく焦ったい。
好きだという気持ちが大きくなって、身体の内側から自分を壊してしまうのではないかと思うほど心臓が大きく脈打つのに、その感情をどうすればいいのかがわからなくてずっと持て余したままでいる。
「めぐ、どした?あれ、また顔真っ赤。ますますかわいー。」
黙っていると、沈黙に耐えかねたらしい珠希が、からかい口調で言いながら今度は指先で俺の頬をむにむにと弄び始めた。
「……ずるい。」
思わずぽろりと本音が漏れる。
そう、ずるい。珠希は平然と愉しそうにしているけれど、俺はもう本当に彼の言動一つ一つにひどく翻弄されているのだ。
「ん?」
「俺のこと、すごくどきどきさせるの、ずるい。」
涙目で訴えれば、何故か珠希の瞳が戸惑うように揺れた。
「それを言うなら、めぐの方がずるい。無自覚はほんと罪。」
「無自覚……?珠希の恋人って自覚が足りない、とか?……だって、珠希格好いいから。珠希の恋人だなんて、まだ信じられなくていつもびっくりしててっ……んんっ… 」
罪なんて他に思い当たらなくて、首を傾げながらそう答えたら、強く唇を塞がれた。
くちゅ、という音と共に、甘い味が口内をいっぱいに満たす。
「んっ、ふぅっ……、んっ……。」
“美味しい”、だなんて絶対に覚えてはいけない感覚なのに、味覚という快楽には抗うことができずに、俺は彼の唾液を貪ってしまった。
……甘い。
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