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“フォーク”と呼ばれる味覚異常者は、人口の0.01%、つまり10000人に1人の確率で生まれる。 一歩間違えれば猟奇的殺人を繰り返すようになる、社会から隔離されるべき存在だ。 フォークは生まれつき味覚がなく、食べ物の味を認知できない。 しかし、代わりにケーキという特殊体質の人間を素晴らしく美味に感じるという。 血の一滴でも、唾液でも、涙でも。本当になんでも、ケーキの一部なら美味しいらしい。 そして、それゆえにフォークがケーキを殺して食べてしまう事件が存在する。 俺が小学生の頃、たまたま一緒に砂場で遊んでいた男の子に、突然大人の女性が近づいてきて思い切り噛み付いた。 女性は爛々と目を輝かせ、口元からは涎をしとどに垂らしていて。 怖くてたまらなかった俺は、彼女を蹴り飛ばし、その子の手を引いて全力で近くのトイレの裏側に隠れた。 「どこにいるの?早く出てきなさいよ。私に食べさせなさい!あの坊や、よくも邪魔したわね。ねえ!早く出てこないと2人とも殺すわよ!!ねえ黄色いシャツの子!!その子を差し出せばあなたには何もしないわ!!!」 女性の口から出たとは思えないようなおぞましい怒鳴り声が、何時間も公園に響いていた。 俺はその子と手を繋いで、動かずにじっとその人が帰るのを待っていた。 やがて警察が来て、その人は連行されたけれど。 後日、その人は“フォーク”だと聞いた。味覚がなく、特定の人間を美味しいと感じてしまう人なのだと。 その話を聞いて、味覚のない俺はもしかしたら自分もそうなのではないかと怖くなった。 涎を垂らしながら、何時間でも怒鳴り声とともにケーキを探す姿は、あまりにも恐ろしく、今でも記憶から抜け落ちてくれない。 だから、人と関わらないようにしていた。もしもフォークであればもちろんケーキの味を覚えてはいけないし、人と接しないことで自分がそうでない可能性を信じることができた。 ……でも、珠希に手を伸ばしてしまった。不相応なことをしたから、きっと罰が降ったのだと思う。 気づいてしまったからには、もう珠希とは一緒にいられない。 せめて珠希に電話をかけてから病院へ行こう。 俺がフォークだから一緒にいられないことと、珠希はケーキだからあまり知らない人に近づかないように気をつけたほうがいいことを、伝えなくちゃ。 スマホを手に取った時、玄関の方でチャイムが鳴って。 「……はい。」 未だ震えたままの手でインターフォンを押すと、そこには珠希の姿があった。 どうして、今目の前に来てしまったんだろう。 ……俺といたら、危ないのに。
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