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後日章: 甘い君
俺がフォークだとわかったあとは、食事を楽しむようなデートは無くなって。
代わりに珠希の家で映画を観たりゲームをしたりして、だらだらと過ごすことが多くなった。
今も珠希の家で、ブロック一つ一つにお題の書かれたジェンガをして遊んでいる。
「めぐ、ちょっとこっち向いて。」
「?」
言われた通りに珠希の方を向くと、ちゅ、と頬に甘い口付けを落とされた。
「いっ、いきなり、どうしたの……?」
「いや、ほっぺにキスってお題に書いてあったから。めぐ、顔真っ赤。まだキス慣れないの?かわいい。」
ピンク色のブロックをひらひらと俺の前に晒しながら、珠希が悪戯っぽく笑う。
「だって、……俺は、初めてだし。」
これ以上真っ赤になっているのを見られたくなくて、俺は珠希から目を逸らしてジェンガのブロックに手を伸ばした。
「俺もめぐが初めてだけどね?」
「えっ?」
聞こえてきた衝撃の言葉に素っ頓狂な声が漏れる。
嘘だ。珠希みたいに格好良い人のファーストキスが俺のはずがない。……でも、そういえば珠希も俺が初恋って言ってたっけ?
ぐるぐると考えているうちに、ビシャ、と冷たい何かが服にかかった。
驚いて机を見れば、コップの水が溢れていて、ブロックも盛大に崩れている。
動揺したせいで手が滑ったらしい。やってしまった。人様の家の床に氷水ぶちまけるなんて。
「あの、……ごめん。」
「気にしないでいい。それよりめぐの方が大丈夫か?冷たいだろ。」
珠希は本当に少しも気にしていないような口調で言って、これ以上床を濡らしてしまわないように動かずにいる俺の代わりに、何枚かタオルを持ってきてばさりとかけてくれた。
「大丈夫。すぐ乾くよ。」
「いやいや、コップ一杯分被ってすぐ乾くことはないだろ。ほらこれ、貸すから着替えてこい。」
“ほら”、と渡されたのは、珠希のジャージと下着だ。
いつも思うけれど、珠希は俺に優しすぎる。
「いいの……?」
「いいに決まってる。めぐが風邪ひいたら1番悲しい。」
「……あの、ありがとう。」
「どーいたしまして。」
それから俺は、脱衣所を貸してもらい珠希のジャージに着替えた。
少し丈が余ってしまったのは、俺と珠希の身長差を考えると致し方ないことだろう。
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