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  ラビィの森という所がありました。  そこには真っ黒な毛にふさふさとしたしっぽ、みみをもったある犬さんが暮らしています。名前をクロウといいました。幼なじみでしんゆうのキャリィといううさぎさんがいますが。キャリィはすでにブラウンという旦那さんがいて一頭の可愛いおんなのこも生まれていました。この子はキュリーと名づけられて明るい元気なせいかくに育っています。  クロウややぎのホルトおじいさんもキュリーを可愛がっていました。けど、クロウの兄弟たちも一頭、また一頭と相手を見つけては紹介してくれるのですが。クロウだけは何年たっても恋人ができていません。  まわりも心配してクロウに言いました。 「……クロウ。そろそろ彼女のひとりでも見つけてきたらどうだ?」 「……キーリー兄さん。いや。なかなか見つからないしな。出会いがないというか」 「そんなことを言っていたらじいちゃんになっちまうぞ。仕方ない。おれのおくさんの友だちを紹介してやるから。その子とつきあってみろよ」  紹介するとクロウそっくりの真っ黒な毛にふさふさとしたしっぽのお兄さんのキーリーが言ってくれました。クロウは苦笑いしながらうなずきます。 「わかった。わざわざありがとう。兄さん」 「ああ。クロウはむかしからキャリィちゃんばかりかまっていたからな。そろそろ、年のちかい同じ犬のおんなのこにも目をむけてみろよ」 「そうだな。そうしてみるよ」  キーリーはにかっと笑うとクロウのせなかを軽くたたきました。 「その意気だ。クロウ。ちなみに紹介するのは明日のひるだからな。それまでにみじたくをすませておいてくれ」 「えっ。また急だな。わかったよ」 「……じゃあ。おれはそろそろ帰るよ」  キーリーはひらひらと手をふりながら家を出ていきます。クロウも手をふって見送りました。  よくじつにクロウは朝早くから身じたくを念入りにします。まずはいっしょに暮らしているお父さんやお母さんにたのんでぜんしんの毛をあらってもらいました。石けんであらい終わったらぬるま湯ですすぎます。何度かそうすると大きな金ダライから出て大きなタオルでよくふいてもらいました。次にブラッシングも自分でやれるところはやり後はお父さんにやってもらいます。毛がかわいてきたら歯みがきなどもしました。 「……うん。ありがとう。父さん、母さん。だいぶ見られるようになったよ」 「ああ。朝早くから何かと思ったが。もしや。お見合いでもするのか?」 「そうだよ。キーリー兄さんがおくさんの友だちを紹介してくれるんだ。それで身じたくをしたんだけど」  クロウが告げると。お父さんもお母さんも目を見開きました。おどろいているようです。 「あらあら。そうだったの。  なら。先にそう言ってちょうだいな。いきなり毛をあらってほしいとか頼まれたからおどろいたのよ」 「……ごめん」 「ふふっ。いいのよ。今日はがんばってきなさいね」 「わかった。そうするよ」 「じゃあ。帰ってきたらけっかを聞かせてね。ごちそうを作ってまっているわ」  お母さんはうきうきとした様子でいいます。クロウはうまくいくといいなと思ったのでした。  おひるになりクロウはキーリー一家が暮らしているお家に行きます。てくてくとあるいていたら向こうから一頭の犬さんがきました。キョロキョロとしきりとまわりを見回しています。どうしたのかと思ってクロウはこえをかけました。 「……そこの君。さっきからしきりとここらをキョロキョロしているけど。いったいどうしたんだい?」 「……きゃっ!あ、あの!」 「え。ごめん。びっくりさせたみたいだね」 「い、いえ。あたしの方こそごめんなさい。じつはキーリーさんのお家に用があって来たんですけど。道順がわからなくて」 「……ああ。道がわからなかったんだね。キーリーさんはおれの兄さんなんだ。よかったらお家まで案内しようか?」  クロウが言うと犬さんは茶色いふさふさとした毛やしっぽを逆立てました。からだはクロウよりひと周りは小さくて。ガタガタとふるえだします。くろいつぶらな目もうるんで今にも泣きそうでした。 「……あ、あの。あたし。むかしから男の犬さんが苦手で。女の犬さんに道を聞きますから。ごめんなさい!」 「……そうか。けど。キーリー兄さんのお家までにはこわいおおかみさんがいる森を通らないといけないし。君一頭だけだとあぶないよ」 「えっ。そうだったんですか。仕方ありませんね。あの。道案内をおねがいしてもいいですか?」  犬さんが上目づかいになりながらいいます。クロウは苦笑いしながらうなずきました。 「いいよ。おれでいいなら」 「……すみません。ありがとうございます!」 「……じゃあ。暗くならない内に行こう」  クロウが言うと犬さんはうなずきました。二頭はそろそろとあるきだします。風がそよそよとふきました。  クロウはなるべく近道を心がけて行きます。おひさまがだいぶ高くなったころにキーリーのお家にたどりつきました。げんかんのドアをノックするとおくさんが出てきます。犬さんやクロウのすがたを見てにっこりと笑いました。 「……あら。クロウさんにクレアちゃんじゃないの。よく来てくれたわね!いらっしゃい!」 「はい。久しぶりです。ケリーおねえさん」 「まあまあ。立ち話もなんだから。入ってちょうだいな!」 「おじゃまします。ケリーちゃん」 「うん。ささ。今からお茶やクッキーを出すから。待っていて」  ケリーははいいろのふさふさとしたしっぽをゆらしながら台所に向かいました。ドアを閉めると犬さん――クレアはまじまじとクロウを見つめます。 「……あなたが今日のお見合い相手だったのね。それなのに。あたしときたら」 「いや。言わなくてごめん。けど。君が兄さんが紹介するって言ってた子なんだね」 「そうよ。ケリーちゃんから話は聞いていたわ。あなた、思ったよりもからだが大きいし。がっしりしているのね」  クレアはそう言いながらおずおずと前足を差しだします。どうやらあくしゅをしたいらしいとクロウは気づきました。同じように前足を出してクレアのそれをそうっとにぎります。 「……改めてよろしくね。あたしはナディの森にすんでいるクレアというの。あなたは?」 「……おれはラビィの森にすむクロウだ。よろしくな。クレアさん」 「ええ。クロウさん」  ぎゅっとクレアがクロウの前足をにぎります。その前足は小さくてほっそりしていました。それにふしぎとむねが高鳴るクロウでした。  その後、ケリーが四頭ぶんのお茶やクッキーをお皿にもりつけて持ってきてくれました。クロウとクレアは向かい合わせでいすにすわります。ケリーはクレアのとなりにすわりお茶のカップをとりました。口にふくむとクレアの方を見ます。クレアはうなずいて話しはじめました。 「……あの。今日はお見合いということで来たんだけど」 「ああ。おれもそうだ」 「あたしね。むかしから身体  は小さいし。引っ込み思案だしなき虫で。男の子たちによくからかわれていたの。そのせいで男の子が苦手になったわ」 「……さっきも似たようなことを言っていたな。男の犬さんは苦手だって」 「それはうそじゃないわ。けど。それだとダメだとお父さんたちに言われたわ。だからケリーちゃんにもそうだんしてみたの。そうしたらお見合をしてみたらってすすめられて」  クレアはそう言うとカップを手にとってコクリとのみます。クロウもお皿にあるクッキーを一つとってたべました。サクサクとしたクッキーをたのしみながらクレアの話のつづきを待ちます。クレアは二口目をのみこむとふたたび話をしました。 「……まあ、そういうわけであなたと出会って。あたし。あなたとならおつきあいしてもいいなと思い始めているわ」 「えっ。おれたち、まだ出会ってから半日もたっていないよ」 「こいにじかんは関係ないわ。よかったわね。クレアちゃん!」  ケリーがにこにこと笑いながらクレアにいいます。目をしろくろさせながらクロウは何とかうなずいたのでした。  あれから夕方になりキーリーがかえってきます。ケリーから話を聞いたかれもクロウがクレアとおつきあいを始めたことを自分のことのようによろこびました。もう夜もおそいのでキーリーのお家に二頭はとまらせてもらいます。  キーリーの部屋にクロウがケリーの部屋にクレアがそれぞれ寝とまりしました。クロウはじゅうたんの上にしきぶとんをしいてまくらをおき、毛布やかけぶとんもじゅんびします。すでに夕食はすませていました。 「……クロウ。クレアさんがお前を気に入ってくれてほっとしているよ」 「おれもそれは思うよ」 「まあ。これからはクレアさんをだいじにしろよな」  クロウはうなずきました。ふとんにくるまるとまぶたをとじます。キーリーもベッドのそばに置いていたランタンの火をけしました。こうして二頭はねむりについたのでした。  朝になりクロウは顔をあらったり歯みがきをさせてもらいます。毛なみもととのえたりしてからお家の中にもどりました。すでにクレアやケリーもおきて朝食の用意をしています。キーリーも木こりをしているのでじゅんびをしていました。クロウは手伝うことがないかをケリーにききにいきます。 「おねえさん。おれも何か手伝いましょうか?」 「あら。おはよう。そうね。お皿をつくえにならべておいてくれないかしら」 「わかりました。じゃあ、お皿を持って行きますね!」  ケリーはうなずくと目玉焼きをフライパンで焼いています。となりにいるクレアはやさいをちぎってサラダを作っていました。二頭ともいそがしそうです。クロウは四頭ぶんのお皿などをもってつくえの上にならべていきます。てぎわよくそうするとキーリーがやってきました。 「……あんがいなれているな。クロウ」 「うん。母さんの手伝いをよくしているから」 「そうか。しょうらいはいい旦那さんになるな」  旦那さんと言われてクロウは困ったように笑いました。 「兄さん。気がはやいよ」 「悪い悪い。じょうだんだよ」  二頭はそう言いながら笑い合いました。ケリーとクレアはふしぎそうにしながらもできあがった目玉焼きなどをリビングに持ってきます。フライパンにある目玉焼きやソーセージをもりつけたりサラダを小皿にもりつけたりしました。そうしたあとで焼いたパンやスープももりつけます。朝食のじゅんびが終わるとキーリーとクロウはさきにいすにすわりました。後でケリーやクレアが来ます。ぜんいんがそろうと前足をあわせて「いただきます」と言って食事が始まりました。 「うん。今日も目玉焼きがうまい!」 「ふふっ。とれたてのにわとりさんのたまごだからね。朝早くに持って来てくれたの!」 「そうなのか。サラダもスープもうまい!」 「サラダとスープはクレアちゃんが作ってくれたのよ」 「えっ。クレアさんが?」 「ええ。クレアちゃんはおりょうりが上手でね。昨日におねがいしたら。うなずいてくれたのよ」  ケリーが言うとクレアはうつむきます。ちょっとはずかしそうです。ますます、むねが高鳴ったクロウでした。  朝食が終わるとクロウはわが家に帰ることにしました。クレアと次に会う約束を取りつけた上でですが。ケリーに見送られながら二頭は帰り道につきます。ナディの森の近くまでクレアを送りクロウはわが家に帰りました。たどり着くとお父さんとお母さんが真っ先にでむかえます。 「あ。クロウ。昨日は帰って来なかったが」 「ごめん。夜も遅いからって兄さん家にとまらせてもらったんだ」 「そうだったのか。ならいいんだけどな」  お父さんはそう言いながらほっと胸をなでおろします。お母さんも同じようにしました。 「……クロウ。冷めてしまったけど。ゆうべのごちそうは置いてあるわよ」 「あ。そうなんだ。おひるごはんで食べるから」 「わかったわ。あたため直しておくわね」  お母さんはうなずくと台所にいそぎました。クロウは昨日のけっかをお父さんにほうこくしたのでした。  その後、クロウから話を聞いたお父さんはおどろきながらもよろこんでくれます。あたため直したごちそうを両前足にかかえたお母さんにも話すととてもよろこんでくれました。この日は夕食もごちそうになります。クロウはやっとあらわれた恋人にかんしゃしたのでした。  あれから二年がたってクロウはクレアとけっこんしていました。二頭のあいだには元気な男の子も生まれています。クロウは一才にやっとなったむすこのコラールをかわいがっていました。 「コラール。今日もごきげんだな」 「ふふっ。お父さんがすきでたまらないのよね」 「そうか。おれというよりは。お母さん似なのにな」  コラールはキャッキャッとはしゃぎます。クロウもクレアもかわいらしいとほほえみ合いました。ラビィの森に夏とくゆうの日ざしがさんさんとふりそそぎます。親子三頭はにぎやかにわが家に入っていったのでした。  ――おしまい――
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