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「マリートヴァ、今日からしばらく彼がここに滞在する。私の最後の客人だ。粗相のないようもてなしてやっておくれ。それから、私が客人とここにいる間、お前はこの部屋へ近寄らぬよう。いいね?」
「……承知いたしました。お嬢様」
一礼して、従者は部屋を後にした。尋ねたいことは多々あったのだが、少しその空気にのまれてしばし言葉を忘れた。それは、全てが予定調和のようだったから。
「……良かったのですか?」
別に彼女のほかに人がいようとも、青年としては問題がなかったのだが。その意志をくみ取ったのか、童女はくすりと笑んだ。
「私が貴方を呼んだのは、あれに「私」を残すため。先に種明かしをしては面白くもないであろ?」
青年は抱えていた鞄を開いた。中から取り出したのは紙とインク瓶、そして羽ペン。彼の仕事道具だった。
青年は羽ペンを片手に、背筋を正す。彼女の言葉をひとつたりとも聞き逃さぬように。
童女はその青年の姿勢にくすりと笑んだ。
「さて、どこから話してもいいのかい?」
「えぇ。――ですが、御覚悟ください。語り出せば、後へは引けぬ道のりです」
「知れたことを。あれに何かを残すことができるなら、喜びこそあれど後悔などあるわけがないわ」
そう、童女は満足げに笑った。
「さて、私については特別語ることもないが、取りとめもなく話をするかね」
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