吾輩は猫じゃらしである

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 6年目の春、店に新しい客がやってきた。  新顔など珍しくはないのだが、その客は、ひとしきり他の猫と遊んだ後、部屋の隅で吾輩を噛むネコタロウを、数時間ただじっと見つめて、帰っていった。  2回目以降、その客は店に来ると、始終飽きずにネコタロウを観察するようになった。  噛まれる吾輩を見て、時々、憐れむような顔をする、不可思議な人間だった。  客は毎度、おやつやオモチャで気を引くでもなく、ただ黙ってネコタロウを見つめ、しばらくすると満足そうに帰っていく。  他の猫には目もくれず、かと言ってネコタロウに近づいたり、手を伸ばすこともない。  そのような気の長さであるから、気ままなやつには打ってつけだったのだろう。  数か月すると、ネコタロウもその客に慣れたのか、自ら寄っていくようになった。
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