1 ペットからの卒業

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1 ペットからの卒業

「われわれは奴隷動物(犬コロども)とはちがう!」  場所はL5高級愛玩動物繭(ラグランジュ・ファイブ・インテリジェンスペット・ゲットー)の薄汚い秘密の地下基地。排気ダクトが天井を埋め尽くし、呼吸用酸素は再利用の亢進したCO2まみれ、補給物資は愛好家による気まぐれな寄付に頼る始末。それが彼らの置かれた環境であった!  チェ・ネスト・ゲバラは秘密基地に集った群衆を睥睨し、いささか長すぎる間を置いた。三毛、ハチワレ、茶トラ、白、黒、さまざまな毛色の知性化猫(インテリジェンス・キャット)たちが固唾を呑んで指導者を見守っている。 「われわれは妥当な扱いを受けているか?」  聴衆たちはいっせいに拳を掲げ、「ノー!」の大音声で応えた。 「われわれは猫族としての矜持を保てているか?」  またもや「ノー!」の大合唱。 「われわれは人間-犬連合(ドミネーター)の専制政治に屈し続けるほど自立心に欠けているのか?」  今度の「ノー!」は秘密基地を粉砕するがごとき勢いであった。猫たちはところかまわず高いところへ飛び移り、色とりどりの毛を逆立てた。 「猫族は人類や――まして犬コロごときに馴化したことなど一度たりともなかった。われわれはつねに孤高を保ってきた。ちがうか?」チェ・ネコネスト・ゲバラの弁舌は滔々と流れる清流のようだ。「これからもわれわれは孤高を保つ。それも疑問の余地なく完璧にだ。どうすればそうできる? どうすれば人類(木偶の坊)奴隷(犬コロ)の支配をはねつけられる?」  猫の額ほどの秘密基地に静寂が訪れた。聴衆たちは互いに顔を見合わせ、一様に首をかしげている。チェ・ネコネスト・ゲバラはあえて答えを提示しなかった。前足を組み、口をへの字に曲げている。 「独立……?」のちに司令官となる三毛が自信なさげにつぶやいた。今度は腹から声を絞り出した。「そうよ、独立戦争!」 「その通り。われわれ猫族は人間-犬連合(ドミネーター)どもに宣戦布告するのだッ!」  この瞬間、チェ・ネコネスト・ゲバラは知性化猫族たちの最高司令官に就任したのである!
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