じぇいじぇい

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じぇいじぇい

 女人(にょにん)服飾かわら版『じぇいじぇい』が月毎の発行を終了したのが、名前が似ていただけのとばっちりだとしても、慈英の効果は絶大で無差別で、どこか無慈悲である。かんざし特集を楽しみにしていた村一番の器量よし、“お千代坊”の悲しむさまは哀れでならない。  ちなみに『女性自身』別版としての発刊だから、頭文字から『じぇいじぇい』らしいが、真偽のほどはこの寒村までは聞こえてこない。しかし『女性自身』という絶妙なタイトルは意味深く興味が尽きないが、みたらし団子をとりわけ好む“お千代坊”はとんと無頓着である。  さて、大根の花が咲く春、村では年に一度のお祭りが執り行われる。村人たちは大根の花を手に手に踊り狂い、若人は夜陰に紛れてまぐわい。お茶を片手に沢庵をもごもごさせながら、往年の恋バナに花を咲かせるのはお年寄りたちだ。タミばあちゃんのシワもピンと伸びる。余談はさておき、物語は始まる。 7f8cda8e-11ab-4ed2-880a-4fe5d40ffb3f 「おぉおぉ、来年の春もきれいに咲くべぇかな」  寒風の中、野良仕事から帰る五作は、馬車の上から秋まき慈英弥(じぇいみぃ)の畑を見やりながら、今夜は嫁のヨネをとことんかわいがるべぇと頬を緩める。そんな日の五作は元気なのである。  桜よりいくぶん遅れて慈英弥も開花する。村人たちが桜そっちのけで開花を待ち望む大根の花は、十字形の四弁花をたくさんつける可憐で美しい花だ。  しかし、その翌朝のことだ。村に大事件が勃発した。村の大根が根こそぎ抜かれてしまったのだ。かじり散らした跡がないから猿などではなく、盗っ人がひっこ抜いてしまったと思われる。 「名主さまてぇへんだ! 村中のジェイミーさまが一本もない!」八人兄弟の末っ子留吉が両手を振り回しながら走ってきた。 「なんと! 冬場はちょうど食べごろじゃないか……」 「……名主さまそこじゃねぇです」
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