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大根オブ大根ズ
「名主さん、五作んとこの畑が無事だ!」
二本松の三男坊“作兵衛”が、薄汚れた手拭い片手に走り込んできた。
「おぉ、来年の春も祭りができるな」
「……名主さま、そこでもねぇです」留吉が困惑する。
「ではなんだ」
「おらたちの神様が盗まれちまったんですよ!」留吉は涙ながらに訴える。
「お前たちには黙っておったのだがな……」名主はちょっともったいぶる。
「本物のジェイミーさまは五年に一度しか現れないのだ。さいわい今年生えてたのはただの大根だ。味もなく色が白いだけが取り柄の大根だ」
「すべて偽物なのですか」信仰心の厚い留吉は今にも泣き崩れそうだ。今年も大事に育てたのだ。
「果てなく広がる大根畑の中に一本だけ存在するのだ。それが本物のジェイミーさまじゃ。尊いお方じゃ」
「本物のジェイミーさま……」
「留吉なんで庭に埋まろうとする」
「……恐れ多いことでございます」
「飢饉のときはな、本物のジェイミーさまがおったのだ」
「名主さまには本物のジェイミーさまがわかるのですか」
「わかるとも。本物のジェイミーさまは言葉を発するのだ」
「お言葉を!」
「そうだ」
「てぇへんです!」
「どうした五作、よこちん出して。さては昨夜まぐわったな」
「はッ⁈ そ、それより、大根さまが言葉を……」
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