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目を覚まして、目に入り込むカレンダーの色に二度見した。
昨夜、たしかにめくったはずのパステルブルーがあって、二月の文字を主張している。切り取られた形跡はなく、桜色である三月にどっしりと乗っかっているのだ。
ーーやっぱり、おかしい。
ノートを開いてみても、授業中に書き留めた小説の続きはなく、まっさらだ。もちろん、余談で聞いた和歌も残っていない。
でも、私ははっきりと覚えている。あの時の鳳来先生の目も、鮮明に記憶していた。
人の目を気にしつつ、朝の職員室を尋ねる。何人かの教師の後ろを通り過ぎ、ひとつのデスクの前で足を止めた。
不思議そうに視線を上げた鳳来先生に、断言する。
「先生が、この不可思議現象の容疑者となりました。事件解決のため、ご協力お願いします」
「……なにを言い出すかと思えば。面白いこと言うね、君」
くすっと笑う眼鏡の奥は曖昧で、計り知れない未知を秘めている。
「あの物語のこと、教えてください」
「……なんの話?」
「裏切られた相手を待ち続けていたっていう、失恋の和歌です」
「……ああ、もしかして、これのことかな?」
積み重ねられた本の中から、先生は文庫本ほどの冊子を取り出した。
桜夜夢寐物語と題された本は、表紙こそ年季が入っているけど、中身はキレイで丁寧に保管されていたことが見てとれる。
授業が始まる前に、少しだけ読むつもりだった。序章から吸い込まれるように向けた目は、止まることなく語尾を追う。
……なに、これ。どういうこと?
気付けば、息をすることすら忘れてページをめくっていた。
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