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放課後、いつものように龍峰神社へ足を運ぶ。どうしても確かめたいことがあった。
鳥居をくぐり、大きな桜の樹の前に立つ。
結局、休み時間を全て使って、最後まで読んでしまった。樹に付けられた古傷を触れながら、ある文章を思い出す。
『桜の樹に、獣のような爪痕が残された』と、桜夜夢寐物語に出てきたのだ。
「……やっぱり、似てる」
この傷を見つけたとき、私の中にあった物語が広がって、素敵な話が生まれると確信したのに。
手首のアザが疼き出して、その場に蹲る。今日は、いつもに増してひどく痛む。
人の気配を感じて、顔を上げた時には、目の前に鳳来先生が立っていた。
「大丈夫か?」
「……先生? どうして、ここに?」
気付けば痛みは和らいでいて、私はゆっくりと立ち上がる。
「桜雲神社って、知ってる?」
小さく首を振ると、先生は穏やかな口調で続けた。
「今は名を変えてしまったけど、ここが、その物語に出てくる桜雲神社だよ」
まるで春風のように優しい声が、脳内を締め付けていく。
この感じ、なんだろう。
走ったあとみたいに、息が上がる。
「……この本の著者は、誰なんですか? 調べても、出てこなくて」
どうしても気になって、途中で検索してみたけど、なんの情報も得られなかった。
そもそも、桜夜夢寐物語という名前すら見つからない。マイナーなものだと言っていたけど、これほど何も分からないのが不思議だった。
「そんなに興味もってくれたんだ。どのあたりが面白かった?」
「……どの、と言われても」
一歩踏みよる足から、一歩遠ざかる。背が樹に追いやられた。
またあの、じとっとした眼差しが向けられて、動けなくなる。
「君が書いてる小説と、とても似てるだろ。だからここへ来たんじゃないのか?」
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