第一章

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第一章

 私の名前は白河(しらかわ)(たくみ)。『邪神の監視人』と言われた加賀地一族の遠縁にあたる。  男女どちらでもある名前だから先に断っておく。女性です。  今では縁結びの神様となった、当の邪神と言われた蛇神・九郎様の嫁である加賀地東子(とうこ)ちゃんとは昔から仲がいい。  九郎様はまぁ、色々あって意図的に悪神とされ、あえて自ら封印されていたらしい。それを解いたのが東子ちゃんで、彼女を気に入って押しかけたわけだ。  誤解も解けて『邪神の監視人』でなくなった加賀地家は今では普通の神社の神主をやっている。特に縁結びの効果が高いそうな。  とはいえ長いこと『邪神の監視人』とされ差別されてた加賀地家に嫁・婿に来るのは訳ありばかりで……早い話が人間じゃないのが多い。先祖が世界中のあらゆる種族全部書き出したリストかな?ってくらい、ものすごい家系図である。しれっと地球外生命体がいても驚かない。  たまに人間がいても何らかの能力者だ。結果、子孫はみんな人外。  それは傍系の私も例外じゃなく。  生まれつき霊や妖の類は普通に見え、会話もできた。けれど祓ったり術を使うのはできず、得意なのはアイテム作りだった。  先祖の一人―――なにしろみんな人間じゃないからほとんど引退&スローライフ満喫してるだけで生きてる―――が気づき、人ならざる者がからんだ事件を担当する警察の部署にいる知り合いに連絡した。そこは隊員に装備を作る職人がいて、その人(これも人じゃなかった)に弟子入りすることになった。  大人になるとそのままそこに就職し、現在に至る。公的な身分は警察官だ。ちなみに年は22。  ただし私は装備や道具の製作・補修担当であって、裏方担当。実働部隊は別にいる。にもかかわらず最近は現場に出ることも多くなっていた。  理由は同居してるニホンオオカミの妖・上弦。  私はゲンと呼んでる。  実は彼とは前世からの知り合いで。正確な年代は覚えてない。少なくとも千年以上は前だと思う。その頃も私は術者が使う道具を作る職人をしてた。  でも女だからと兄弟子たちに疎まれ、師匠の死後は追い出されるように山の中で一人暮らしていた。  家族はとうに亡く、孤児になったところを師匠に拾われたので本当に独りぼっちだった。  当時ゲンは主である九郎様の封印を解くべく、日本中を放浪していたという。そこで封印に使うアイテムを作る職人なら解除方法も知ってるんじゃないかと襲ってきたのがきっかけだ。  襲ってきた、ってヤバイじゃないかって?  うん、まぁねぇ。九郎様が「トラブルメーカー」と評してたように、ゲンは傲慢でプライドが高い。人の言うことはきかず、例外は九郎様だけだ。しかも常につっけんどんで眉間にシワは寄ってるわ、見下すような視線向けてくるわでケンカ売ってるのがデフォルト。  そんなのが急に来て暴れたもんでパニックになった私は「こうなりゃイチかバチかだ!」と愛用のトンカチを振り下ろした。  ……ら、なーんか力封印しちゃったらしくてねー。  いやぁどういうミラクル。  マジカルキュア……っとまずいまずい。  どうやらさんざんそういう道具作りまくってたんで、工具も神器みたく不思議な力が宿ったっぽい。  でも素人だしマトモな道具じゃないしで、弱体化させられただけだった。ゲンは先に兄弟子たちのいる村で騒ぎを起こしてて、このままじゃ殺されちゃうと私が引き取ることにした。  それから短い間だけど一緒に暮らしてた。  それはとても幸せな日々だった。
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