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「嫌です、だって好きだもん」
「お前ほんとまじでかわ、い、いな…」
「え?後半どうしたんですか?」
「いや自分の口から自然に可愛いなんて単語出てくると思わなくてびびった…」
気持ち悪いな、三十路にもなって。
そう落ち込む俺を、弥生が潔く笑い飛ばす。
この先も俺は散々弥生の涙を見ることになるのだろう。会えない時間と距離の狭間にどれだけの寂寥を背負い込ませるのか、考えただけで逃げ出したくなる。
それでも手放せないなんて。
本当に俺って男は、どこまでも身勝手で最低だ。
「稜さんてその辺ダメですよね」
「気障な台詞とか言える男って最早尊敬する…」
「でもどんな時も言葉より自分の行動で示すのが和泉稜でしょう?」
「それはちゃんと会いに来いって忠告か?」
「ええ、もちろんです」
「お前ほんと良い性格してるよ」
まだ涙の乾かない瞳が得意げに眇められた。
点けっぱなしだったテレビは歌番組か何かに移り変わったようで、最近流行っているらしいラブソングが聞こえてくる。
砂糖でも吐きそうな甘い歌詞を聞きながら、俺は目の前の愛おしい恋人を抱き締めて、心の中で人知れず誓う。
本当に俺は大した男じゃねえけど。
でも傷つけた責任は絶対取るから、覚悟しとけ。
――Fin.
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